干支(えと)にちなむ貝−亥年−
2007年1月5日(金)〜31日(水)
房総の地学展示室前廊下

これまで、7年間、干支にちなんだ名前をもつ貝類を紹介してきました。今年の干支は亥(イノシシ)です。当館の二宮コレクションや品川コレクションなどの中から、イノシシに関係する名前の貝を紹介します。イノシシにちなんだ名前を持つ貝は、日本・中国・英語圏でもかなり少ないようで、ちょっと無理をして新たにイノシシに関係する和名を付けてみました。また、ブタはイノシシを家畜化したものなので、ブタに由来する名前をもつ種も展示しました。

1.ウリボウサラサマイマイ(新称:瓜坊更紗蝸牛) Limicolaria karagwensis ウガンダ(アフリカ)産

丸い殻形と褐色の地色に黄白色の縦じま状のマダラ模様を持つことを、イノシシの子供の「うりぼう」に見立てて、今回名付けました。農業害虫として良く知られているアフリカマイマイの仲間の小形のグループに属します。この仲間は、アフリカ各地に多くの種が生息しています。

2.シシノツメガイ(新称:猪の爪貝) Pleurobema cordatum  北アメリカ産

後に紹介する同じ仲間に、ブタノツメガイと名付けられた種があったので、近い仲間で、より強固な感じのする本種をシシノツメガイと新らたに名付けました。淡水にすむカラスガイ・イシガイの仲間で、北アメリカのオハイオ州の標本です。ある情報では、英名をOhio Pigtoe[オハイオのブタノツメガイ]というとのことです。

3.ブタノツメガイ(豚の爪貝) Quadrula quadrula  北アメリカ産

シシノツメガイの名の元になった種で、英名をPigtoeと言うようです。ただ、英名は、必ずしも日本の標準和名のように一種にひとつだけが対応する訳ではないようです。殻に少し溝があり、この特徴が豚の爪を連想させたのかもしれません。殻の表面に小さなイボが見られるのも特徴の一つです。淡水にすむ種で、オハイオ州から得られたものです。この種には、ヒラガマノセカワボタンという名前もあります。この仲間は、貝ボタンの原料として日本にも輸入されていたことから、川釦の名が付けられ、本種ではガマガエル(ヒキガエル)のようなイボが認められ、平たいことから、ヒラガマノセカワボタンの和名が付けられました。

4.イノクチマイマイ(猪口蝸牛) Papuina tayloriana パプア・ニューギニア産

イノシシの口(=鼻)のように殻の口がやや尖って突出しているところから、名付けられたカタツムリの一種です。尖った殻口や綺麗な色彩は、日本のカタツムリにはほとんど見られない特徴です。この種は、比較的高密度で生息しているためか、標本用の種としても販売されており、タイロエビスマイマイやナナイロパプアマイマイの名前が用いられることもあります。

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巻貝の仲間に、イグチガイという和名の種があり、この種の細く伸びた水管をイノシシの口に見立てて「猪口貝」とされることもありますが、むしろ本種の殻口上部が湾入しているところから欠唇貝の方が正しいという見解に従い、今回は多数の種を含むイグチガイ類を展示しませんでした。
また、イノシシのことを単にシシと呼ぶこともあり、貝にもシシダマというタマガイ類があります。ただ、シシダマは、殻に斑点のあるヒョウダマ(豹玉貝)、褐色の縞があるように見えるトラダマ(虎玉貝)等があるにもかかわらず、百獣の王ライオンにちなんだ和名の種がなかったことから、模様のない種に、シシダマ(獅子玉貝)と名付けられたので、イノシシとは無関係です。

参考文献:岡本正豊・奥谷喬司. 1997. 貝の和名. みたまき, (特別号):1-95.
(2007.1. 動物学研究科/黒住耐二)