干支(えと)にちなむ貝−寅年−
2010年1月5日(火)〜31日(日)(終了しました)
2階ホール(入場券売り場前の広間)階段側

 これまで、11年間、干支にちなんだ名前をもつ貝類を紹介してきました。
 今年の干支は寅(トラ)です。当館の二宮コレクションや前田・大熊コレクションなどの中から、トラに関係する名前の貝を紹介します。トラにちなんだ名前を持つ貝には、褐色の斑紋からトラを連想したものと、18世紀のヨーロッパではトラとヒョウが混同され、斑点をもつものにトラ(tiger)と名付けているものとがあります。
1.トラマイマイ(虎蝸牛)
Euhadra peliomphala f. nimbosa 東京都産
nimbosa.jpg
 濃い紫褐色の地色に、明黄白色の斑紋(火炎彩といいます)の入る美しいカタツムリです。千葉県にも広く分布するミスジマイマイのうち、関東地方西部から伊豆半島に生息するものに、この型が良く現れ、その見事さから特に区別されています。千葉県にも同様な色彩の個体が見られますが、あまりトラマイマイとは呼びません。ただ、生物学的には、トラマイマイとミスジマイマイは全く同じ種です。
2.トラダマ(虎玉[貝])
Natica vitellus オーストラリア産
vitellus.jpg
 褐色の帯(スジ)をトラに見立てて名付けられたようです。奄美諸島以南の浅い砂泥地にすんでいます。この種は、ツメタガイと同じ仲間に属し、他の貝に丸い穴をあけて食べます。この仲間には、殻の模様などから、ヒョウダマ(豹玉)・ヤマネコダマ(山猫玉)・シシダマ(獅子玉)・ネコガイ(猫貝)といったネコ科の名前の付いているものがあります。
3.トラフケボリ (虎斑毛彫り[宝貝])
Primovula tigris 和歌山県産
primovula.jpg
 タカラガイの仲間で、生きている時には外套膜(がいとうまく)で殻を包んでいます。この外套膜には、まるでトラのような褐色と黒の模様があります。浅い岩礁域に生息するフトヤギ類を餌として、その上にすんでいます。ケボリは、毛ほど細い溝が多数あることから名付けられています。トラフ○○という名を持った貝には、他にもトラフザラ・トラフクダマキなど、数種類があります。
4.ホシダカラ (星宝[貝])
Cypraea tigris フィリピン産
cypraea.jpg
 かなり普通のタカラガイの一種で、日本では黒い斑点を「星」に見立てています。ヨーロッパでは、この斑紋から、学名(万国共通の名前)の種小名(右側の小文字の部分)は、tigrisとトラ(tiger)に因んでいます。当時のヨーロッパでは、トラとヒョウ(豹)が混同されていたようです。
5.ゴマフダマ (胡麻斑玉[貝])
Natica tigrina  千葉県産
tigrina.jpg
 黒ゴマ(胡麻)を散らしたような模様を持つことから、和名が付けられています。ホシダカラと同じく、学名の種小名は、tigrinaとなっており、トラに因んでいます。元々は東京湾に生息していなかった貝なのですが、潮干狩や蓄養アサリに混じって、中国沿岸から千葉へも持ち込まれてしまいました。この標本は、1995年に木更津市小櫃川河口干潟(盤洲干潟)で生きた状態で得られたものです。他にも、アサリと共に捨てられていた標本は多数得られています。この貝は肉食性でアサリなどに穴をあけて食べてしまいます。幸運にも、東京湾では現在ゴマフダマの定着は認められていませんが、繁殖し、新たな外来種となってしまう可能性は充分にあります。
*この展示は、中央博物館重点研究「海岸域における多様性の変化を探る」の一環として行いました。
参考文献:岡本正豊・奥谷喬司. 1997. 貝の和名. みたまき, (特別号): 1-95.
(2010.1. 動物学研究科/黒住耐二)