地衣成分と呼ばれる化学物質はとても多くの種類が知られています.このうち構造が決定されているのは約700種類とされています(文献).地衣類の種によって含有する地衣成分が異なるため,古くから分類形質として利用されています.一方,地衣成分そのものや,これを化学変化させた産物を利用する可能性が着目されています.理科の実験で使われるリトマスも,リトマスゴケの地衣成分を利用して作られる染料なのです.
(文献)Huneck S. & Yoshimura I. 1996. Identification of lichen substances. Springer, Berlin & Heidelberg.
 

これが地衣成分

●簡単に抽出できる

ウメノキゴケを約1㎝四方とって,きれいにごみを取り除き,スライドグラスの上に置き,そこにアセトンを注ぎます.しばらくすると,アセトンは蒸発し始め,周りに白い粉のようなものが出てきます.これが地衣成分です.この状態だと,結晶が小さくて,成分ごとの特徴が分かりにくいのですが,簡単に結晶を大きく成長させることができます.

extracting

●結晶を大きくする

ウメノキゴケからアセトンで抽出した粉状の結晶(アセトンエキス)を,カミソリやメスでかき集め,スライドグラスの上に置きます.これをグリセリンと酢酸の混合液(GEあるいはGE液と呼びます.グリセリン:酢酸=1:3)で封入し,軽く熱し静置します.

すると,1分もたたないうちに,レカノール酸の大きな結晶が現れます.右の写真は,生物顕微鏡で200倍で撮影した画像です.

lecanoric

地衣成分と呼ばれることになった

●地衣類特有の化学物質

地衣類の種類によって地衣成分が違うことから,20世紀には分類学と有機化学の両面から地衣成分に関する研究が進みました.その化学物質が,地衣類以外からは見つからなかったために,地衣類特有の物質という意味で,地衣成分と呼ばれるようになりました.地衣酸ということもあります.

 

細胞の外,菌糸の表面にある

●髄層の菌糸の表面に付着する

ウメノキゴケでは,髄層にレカノール酸があるとされています.髄層は繊維状の菌糸が絡まってできていますが,その菌糸の表面に,レカノール酸が付着しているようです.葉状地衣では同じように,多くの地衣成分が髄層の菌糸の表面に付着しています.

medulla

●皮層に含まれるアトラノリン

ウメノキゴケの体の表面は,皮層で覆われています.髄層と違って,菌糸が互いに密着するので,地衣成分は表面には現れません.ウメノキゴケの場合,皮層にはアトラノリンという地衣成分が含まれていますが,これは,皮層の菌糸が互いに密着した境界付近に埋もれて見えます.

cortex

 

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