第13章 鳥



 三番瀬の鳥類を概観するには、船橋三番瀬クリーンアップ実行委員会の「三番瀬ガイドブック」の次のような記述が、特に鳥に関心のない方にもわかりやすいものでしょう。

三番瀬はえさが豊富なため、たくさんの渡り鳥がやってきます。鳥は潮の干満に応じて移動し、えさを取ったり休息したりしています。

季節ごとの特徴は、次のとおりです。
春:シギ・チドリ類が、南から北への渡りの途中に三番瀬で休憩します。
夏:コアジサシが繁殖(卵を産む)し、アジサシもやってきます。
秋:春に北に渡った鳥が、南へ渡る途中に立ち寄ります。
冬:ガン・カモ類が越冬するためにやってきます。特にスズガモが多く、その数は十万羽近くになることがあります。
また、カワウやカモメ類は、ほぼ1年中見ることができます。


シギ・チドリ類

 シギ類という鳥の種類と、チドリ類という鳥の種類があります。どちらも湿地の環境に適応しています。
三番瀬で代表的なシギであるハマシギは、冬季に平均約2,500羽、最大3,900羽観察されています(補足調査結果による)。くちばしの先から尾の先まで21センチメートルしかありませんが、シベリア北部、アラスカなどの北極圏を繁殖地とし、日本の南西部や台湾、中国南部で越冬するという、地球規模で何千キロメートルも移動する鳥です。
 他のシギやチドリも同様に地球規模の長距離を移動します。春に繁殖地である北に向かう途中で三番瀬のような干潟にたちより、夏にシベリアなどで子育てをして、秋に越冬地に渡る途中で再び三番瀬に立ち寄ります。小さい体からは想像できないエネルギーを持っています。
 彼らは、長距離を移動しながら干潟で休息し、栄養を補給していると考えられています。三番瀬などは例えれば長距離飛行の中継基地であり、埋立てによって中継基地がなくなった場合、その基地に依存していたルートの鳥は非常に大きい打撃を受けるということになりかねません。
 三番瀬など湿地の重要性は、その場所にいる生物だけではなく、地球規模で移動している鳥を支えている中継地であるということにあります。そのため、繁殖地と越冬地だけでなく、途中の中継地である干潟を守ることが国際的に重要な意味があることになります。
 ラムサール条約という国際的取り決めは、このような湿地の重要性に着目して、1971年にイランのラムサールで開催された国際会議で採択されました。日本もこの条約に加盟しており、釧路湿原、霧多布湿原をはじめとしてすでにいくつかの重要な湿地が登録されています。習志野市の谷津干潟もそのひとつです(1993年6月登録)。
 三番瀬がラムサール条約の登録湿地となることは、鳥類の保護に関して谷津干潟との相乗効果があることが期待されています。

コアジサシ

 コアジサシは、シギ・チドリのように旅の途中で三番瀬に立ち寄るのではなくて、夏に三番瀬周辺の陸地、特に砂浜や埋立地など植物が生えていない裸地に好んで巣を作ります。三番瀬周辺の未利用の埋立地が繁殖地ということになります。千葉市の埋立地でも繁殖するので千葉市の鳥になっています。特に現在の幕張メッセのあたりは、土地として利用される前は、コアジサシの大繁殖地だったと聞いています。
 コアジサシの越冬地は、ニューギニアやオーストラリアとされています。やはり地球規模の大移動をする鳥です。
 土地として利用するために作った埋立地が繁殖地になってしまうので、繁殖地を保護するということは、埋立地を使わないということになり、なかなか難しい問題を提供してくれる鳥でもあります。
  三番瀬円卓会議でも2003年の夏に繁殖地(浦安)の見学会を実施して話題になりました。

スズガモ

 冬の主役は、カモ類です。中でもスズガモは、三番瀬にたくさん来ていて、全国に来ているスズガモの約半分といわれています。一時は10万羽近く渡って来ていましたが、最近は1万から1万5000羽になっています。
 羽の音が、リリリリ又はキンキンと鈴のような音に聞こえるところから「鈴鴨」の名がついているそうです。アサリなどの貝を主食としていて、えさが少ない場合、越冬数が減少することがあるようです。意外ですが、貝は、丸呑みにして、砂嚢という消化器官で消化しているのだそうです。重くて飛べなくならないか心配になりますが、5ミリ以下の稚貝を食べているということなので、それほどでもないのでしょう。
 大きな群れを作る理由としては、ハヤブサなどの天敵から身を守るのに、集団のなかで身を隠すのが安心と考えているからと説明されています。
 夜行性で、夜になると潜水してアサリなどの二枚貝を食べます。
 オスは春先にメスに対して求愛動作を行うのだそうですが、春先には北に帰るのと、夜行性なので観察例がたくさんあるわけではなさそうです。
 スズガモは、アサリをえさとするので、アサリ漁業と競合する関係にありますが、いままでは共存してきました。
 補足調査によれば、体重から推定されるえさの量は、一冬約9,000トン(うちアサリは4,200トンと推定)です。スズガモのえさになる分くらい問題にならないほどの漁獲があればよいのですが、02年まではアサリの不漁が続いていました。
 漁業との共存が図れるよう、今後の研究に期待しています。

 三番瀬には四季を通じて、様々な鳥が来ています。これらの鳥は、渡りをする鳥であることが多く、三番瀬は重要な中継地点だったり繁殖地であったりします。
 埋立てが進む前の東京湾は、たくさんの干潟があり、漁業と共存しながらこれらの鳥たちに十分な食料を提供していました。現在、東京湾にわずかに残った三番瀬と木更津の盤洲干潟は、工業化のために地球の生命の一部を削りに削った最後の生命線ということもできます。
 ぜひ、三番瀬で鳥たちの声を聞いてください。はるかな昔から遠く旅している旅人の声は、私達生命の存在の根を語りかけているような気がします。

(新保浩一郎)


みんなで考えよう。
  • コアジサシは、埋立地が好きですが、埋立地は人間が使うために作られました。コアジサシの繁殖地を確保するためには、どんなことがあるでしょうか。
  • スズガモは、アサリを食べるのですが、アサリの量が少なくなって漁業者もスズガモも困っています。スズガモと漁業が共存するにはどうしたらよいでしょうか。