房総の植物誌づくりと中央博物館
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    「植物誌をつくる」 ・・・・ その意義    
<もくじ> 1 植物誌をつくる
1-(0) ながーい前置き・・・・ふつうといってもいろいろあるんだ・・ということ
1-(1) 植物誌の役割・・・・・過去を復元し・現在を知り・未来を予測・・・ということ
1-(2) 標本の役割・・・・・・・動かぬ証拠を集める・・・・ということ
1-(3) 全県の植物誌つくりを目指して・・・・千葉県どこでも・・・ということ
1-(4) 真の植物誌つくりを目指して・・・・・・どんな植物でも・・・ということ。
1-(0) ながーい前置き
ある地域に生育している全ての植物の種類や生態などを観察し、それらを余すことなく網羅的に記述したもの、それが「植物誌」です。


 「この黄色い花はなぁーに」

 「タンポポよ」
 「あそこにも咲いているよ」
 「ふつうの花よ」

 よく聞かれそうな親子の何気ない会話です。




  しかし・・・世の中そんなに簡単ではありません
関東地方では“タンポポ”は黄色だと思われていますが、
九州地方では“タンポポ”と言えば、シロバナタンポポで、花は白色です

また、現在、千葉県の街中で「ふつう」に見られる“タンポポ”の多くは、
帰化植物のセイヨウタンポポやアカミタンポポで昔の人が見ていたカントウタンポポとは違います
セイヨウタンポポ
Taraxacum officinale
Weber
花の総苞外片が反り返る
カントウタンポポ
Taraxacum platycarpum
Dahlst.
花の総苞外片が反り返らない
シロバナタンポポ
Taraxacum albidum
Dahlst.
西日本に多い

ひとくちに「ふつう」と言っても、時と場所で、いろいろあります。
「ここでふつう」、「房総でふつう」、「日本でふつう」、「世界でふつう」ですか。
あるいは「今はふつう」、「昔はふつう」、「将来はふつう」ですか。

その場所、その時代によって、生育している植物が違います。環境が違えば、植物が違います。
『植物誌』があればこそわかることがあるんです。
1-(1) 植物誌の役割:過去・現在・未来をつなぐ
「植物誌」はある地域の植物について、過去、現在、未来をつなぎます。

 たとえば こんなことがいえます。その1
フジバカマ
Eupotorium japonicum Thunb.
かつては利根川流域に
よく見られた秋の七草。
現在はほとんど絶滅してしまった。
セイタカアワダチソウ
Solidago altissima L.

今は川原などに
普通に見られる帰化植物
  

  「昔はフジバカマはふつうだった」
  「セイタカアワダチソウは昔はなかったけど、
 今はふつうだ」
 「帰化植物はこれからはふつうになるだろう」




  
 


「帰化植物」:外国から入ってきた植物で、本来は日本に生育していなかった植物のこと。
 たとえば こんなことがいえます。その2
サギソウ
Habenaria radiata (Thunb.) Spreng
千葉県レッドデータブック最重要保護生物。
かつては、湿原にふつうにみられたが、
現在はほとんど絶滅してしまった。
サギソウの標本


かつては九十九里浜の
湿原で採集された標本。
 
 千葉県では、
 サギソウは絶滅に瀕しています。
 
 ・・・・と断言できます







 注)  「レッドデータブック」
絶滅の危機に瀕している生物に関する資料集
などと言えるのも、「植物誌」があるからです。
このように過去の記録と現在のようすを比較することで、いろいろなことがわかるようになります。
また、「植物誌」は、絶滅に瀕する保護上重要な植物の選定を可能にし、自然保護や環境保全のような未来を展望することにも役立ちます。
1-(2) 標本の役割:標本はたいせつな証拠物
過去の論文や報告の基になった標本は、その記録を証明する唯一の証拠です。
過去の記録には、間違いがないとも限りません。また、同じ植物でも、過去に使われていた名前と現在の名前とが異なることも度々あります。
このようなに過去の記録を確かめるのは、意外に手間のかかることです。
こんな時、『標本』は。それらを確かめる最も早くて、有効で、確実な手段になります。
やってます   『標本をつくり保存する』ことは、「植物誌をつくる」うえで重要なしごとなのです。
 作ります  整理します  保存します、・70年前の標本
採集された植物は、
一つ一つていねいに
標本にされます。


100年後、200年後に
使えるようにと・・・
標本は、
標本庫の標本棚に
収められます。


県民の知的財産として
過去現在未来の標本を
伝えて行きます。
不滅のものにするために・・・
與世里盛春氏収集標本。
1932年発行の
「千葉県の植物」の証拠標本
(標本は百名盛之氏寄贈)
  植物標本庫
植物の分類群ごとに収納されていきます。
ケースの上にあるたくさんの標本は、収納を待つ準備中の標本です。
標本の作製から同定、整理、収納まで、時間もかかるし、数も多いので、整理収納は職員の一生仕事です。
そのつもりでなければできません。
また、
蜜に群がる蜂のように、
文化財関係者・市町村史作製・自然保護・環境教育などのいろいろな利用者がやってきて、標本を調べて行きます。
このような利用への相談も重要な仕事です。
   今どのくらいたまっているか・・・
現在当館では、
維管束植物 ・・・約20万点
コケ植物  ・・・・約3万点
藻類  ・・・・・・・ 約2万点
地衣類   ・・・・・約2万点
大型菌類  ・・・・約2万点  ・・・・・・いわゆる、キノコのことです
の標本を収蔵しています。

もちろん、次の章で述べる、中央博発足以前の個人やグループの採集整理された標本も、主要なものは全て中央博に寄贈して頂いています。
    注) 種子植物:たねをつける植物の総称。
     
維管束植物:水や養分の通り道である維管束を持つ植物のこと。シダ類と種子植物が含まれる。

   私らのモットー   

今の標本だけでなく、過去の標本も、当然、未来の標本も保存して、千葉県民が身の回りの自然を考える時に必ず立ち返ってくる基礎資料として、県民の大事な知的共通財産として、守り育てていきたいと考えています。

ひらたくいえば
・・・・県民のための、知的財産づくり。
・・・・図書館が本を伝えるように、博物館は資料を伝えます。
・・・・有意義な仕事として、私らも人生かけてます。

1-(3) 全県の植物誌つくりを目指して
当館では、千葉県の全県におけるデータを集め、まんべんなく調査するために、全県を1km四方の区画に区切りなるべく多くの区画で均等に調査するように努力しています。

過去の記録をたどってみると、これまでの調査は有名な地域に集中する傾向があり、未だにほとんど調査されていない地域の方が多いことも分かりました。また、収集されている植物も貴重なものや珍しいものが重視されていたような傾向がありました。
このことは、千葉県に生育している植物がほぼ網羅されたとしても、ある地域や市町村にどのような植物が生育しているかは、依然としてよく分かっていませんでした。
  まあ見てください・・・むらなくやってます 

   調査・採集地点のかたよりを解消
1933年までは、
清澄山や九十九里浜などに
偏っていました
1988年(当館の開館前)までは、
調査地点が
まばらでした
2001年までに、
多くの地点で調査されました
1-(4) すべての植物を網羅する 真の植物誌つくりを目指して
当館では、種子植物を初め、シダ類、コケ植物(蘚苔類)、藻類、地衣類、大型菌類、植生誌など、
 あらゆる植物と菌類を調べ、真の「房総の植物誌をつくる」努力を重ねています

その成果は当館の自然誌研究特別号や他の文献の中で随時公表されています。

 ・・・実はね
多くの場合、「植物誌」という言葉を使っていますが、実際にはシダ類と種子植物だけが扱われている
「維管束植物誌」と言っても過言ではありません。
これまでにも、1958年版の「千葉県植物誌」では海藻などが扱われ、
1975年版の「新版千葉県植物誌」ではコケ植物(蘚苔類)などが扱われていますが、
いずれも付録的でした。
自信あります・・・この植物誌 
千葉県立中央博物館自然誌研究特別号5
「房総の植物誌-海藻・蘚苔類・大型菌類・地衣類」
(2002年、千葉県立中央博物館、2002年)




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