教室博日記 No.1897

 2020/12/04(金)

 房総の素掘りトンネル

 市原市の小湊鉄道月崎駅近くにある永昌寺のトンネルを訪ねた(写真1)。砂の層をくり抜いた素掘りのトンネルで、入り口の形が五角形で将棋の駒のような形になっている。道路から少し下がったところにあるため、知らないと見過ごしてしまいそうだが(写真2)、いろいろなところで紹介されているとても有名なトンネルだ(写真3)。

  • 写真1 月崎駅近くの永昌寺のトンネル入口。五角形の将棋の駒のような形をしている。なおトンネル内は、現在車両通行止めである。
  • 写真2 注意していないと見過ごしてしまいそうな位置にある
  • 写真3 永昌寺トンネルのプレート

 この五角形の掘り方は、日本古来のもので、「観音堀り」と呼ばれている。トンネルの中に入ると、五角形がはっきりわかるように上手にライトアップ?されている(写真4)。天井のとがった部分には素掘りの跡が見られ(写真5)、人のぬくもりが感じられるトンネルである。上部が尖っていることで、トンネルの上の山全体の圧力が左右に分散し、崩落を防ぐ効果があるという(JR東日本, 2020)。

  • 写真4 トンネルの中、ライトで五角形が浮かび上がっている
  • 写真5 トンネルの天井部分

 トンネルの反対側の入口は五角形でなく、ふつうのトンネル型で表面に補強がされている(写真6)。この先にも再び素掘りトンネルが連続し、道は小湊鉄道の飯給(いたぶ)駅へと通じている。

  • 写真6 反対側の入口はふつうのトンネル型

 今年(2020年)の後半は、新聞社や雑誌関係から、このような房総の素掘りトンネルについて取材を受けることがなぜか多かった。

 そのような場合に必ず聞かれるのは、「なぜ房総にはこのような素掘りのトンネルが多いのか?」ということだ。その答えとしてよく言われるのは(私もそう言っている)、「山を作る地層が軟らかくて掘りやすいから」である。確かに地学的には比較的新しい時代に堆積した砂や泥の地層が多く(といっても数10万とか100万年前とか、地質年代としての新しさであるが)、人の手でも容易に掘れそうである。しかしただ掘りやすいからと言って、わけもなく掘る人はいない。トンネルを掘る目的があるはずだ。

 そのひとつが、人や車を通すための道としてのトンネルだ。房総の山は低いとはいえ、深い谷が多く、地形に沿って谷を下り、尾根を越えていると大変である。トンネルを掘れば、時間と労力の節約になる。特に明治期に入って車(といっても荷車のようなもの?)を通すためには、ある程度幅のある、あまり傾斜のない道が必要になったということであろう。今回見た永昌寺のトンネルもそういう目的で掘られたものであろう。

 これ以外にも房総丘陵には、「水を運ぶ」という目的のために掘られた「二五穴(にごあな)」と呼ばれるトンネルがある。入口の大きさが、人がひとり入れるくらいの2尺5尺(約60cm×150cm)と決まっているので、そう呼ばれている(以前当館でも調査や展示が行われた)。さらに江戸時代以降、主に新田開発を目的にした曲流河川の短絡工事で作られた「川廻しトンネル」もある。これらについては、別の機会に紹介したい。

  • 【参考文献】
  • JR東日本(2020)特集/千葉県 房総の穴場不思議ミステリー.「大人の休日倶楽部」2020年10月号.

(八木令子)