No.1328 2015/02/12(木)

 ヒメコマツの実生


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 ヒメコマツの調査のために房総丘陵のとある尾根に登った。2月には珍しく暖かな好天で、青空を背景に陽光を浴びて枝を広げるヒメコマツの樹姿はひときわ美しかった(写真1)。房総丘陵のヒメコマツは氷河期の生き残りと考えられる貴重な植物で、近年は個体数が減り絶滅が危惧されている。この日の目的は分析のための枝のサンプルを採取すること(写真2)。希少なヒメコマツを松枯れ病から守るための研究の一環である。
 生い茂る低木をやっとの思いでくぐり抜け調査対象の1本のヒメコマツにたどり着き、目的のサンプルを採取した後、かたわらの薮にもぐり込んで「ある物」を探した。その「ある物」とはヒメコマツの実生(みしょう)である。実生とは種子から芽生えた幼い植物のこと。房総のヒメコマツは繁殖がうまくいっておらず、健全な実生が少ない。これもヒメコマツが衰退している要因の一つとなっている。
 地表に折り重なる枯れ枝や下草を片付けること数分。ようやく目当ての実生を見つけた(写真3)。樹高わずか5センチだが、この実生は10年も前からこの場所に生えている。陽当たりも悪く、良好とはいえないこの環境で、かろうじて生育しているのだ。ヒメコマツの実生には、このような条件に耐えて生き延びる能力がある程度はあるらしい。しかし、このような実生が成木にまで育っていく可能性は低い。それだけに、毎年この場所を訪れる度にこの実生がまだ生きていることを確認できると少しうれしい。
 (尾崎煙雄)

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写真1
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写真2
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写真3
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 ヒメコマツ Pinus parviflora var. parviflora(マツ科)

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