No.1398 2015/11/06(金)

 フユノハナワラビ


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 三島小の校庭にて。今年もフユノハナワラビが伸びてきた(写真1)。フユノハナワラビはシダ植物の仲間だが、シダとしてはかなり変わった特徴をいくつも持っている。
 まずは、その名の通り冬に出現すること。フユノハナワラビは秋に葉を出してそのまま冬を越し、初夏に地上部が枯れる。このような生活史を「冬緑性(とうりょくせい)」といい、シダとしては珍しい。
 二つ目の特徴は、「花」のような胞子葉をつけること。フユノハナワラビの仲間には2種類の葉がある。栄養葉(写真2)と胞子葉(写真3)だ。栄養葉はふつうのシダの葉の形をしていて、光合成を担当する。胞子葉の方は葉とは思えぬ形をしていて、花のように見える。胞子葉には直径1ミリほどの黄色い粒が多数ついている(写真4)。これは胞子嚢(ほうしのう)で、中に胞子が入っている。
 余談ながら、ハナワラビの仲間のことを英語では「grape fern」と呼ぶ。直訳すれば「葡萄シダ」だが、これは多数の胞子嚢が並んだ様子をブドウの房に見立てたものだろう。
 もう一つ、フユノハナワラビには目に見えない特徴がある。それは前葉体(ぜんようたい)が菌類に依存すること。前葉体とは胞子が発芽して作られる小さなコケのような植物体で、ふつう目にすることはない。しかしシダ植物にとって前葉体は重要な存在である。なぜなら、前葉体は卵細胞と精子を作り有性生殖をする「配偶体」だからだ。多くのシダの前葉体は葉緑素を持ち、自力で光合成をして地表で生育するが、ハナワラビ類の前葉体は葉緑素を持たず、地中で生育する。このときに菌類から栄養を得ているものと考えられている。なぜそんな生き方を選んだのかは謎だが、とても興味深い。
 とくに珍しい植物というわけではないが、フユノハナワラビは我々が植物に対して抱いている常識をいろいろな意味で裏切ってくれる存在である。
 (尾崎煙雄)

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写真1
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写真2
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写真3
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写真4
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 フユノハナワラビ Botrychium ternatum(ハナヤスリ科)

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