No.1633 2018/8/22(水)

 タマムシ


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 清澄山系にて。切り倒されたエノキの大木がある(写真1)。ここにはタマムシが集まる(写真2、3)。タマムシは別名ヤマトタマムシとも呼ばれる甲虫で、奈良の法隆寺所蔵の国宝「玉虫厨子(たまむしのずし)」にその翅が使われていることでも知られる。
 その翅のきらびやかな美しさのためか、房総丘陵の地元の方々はこの虫を「タマムシ」ではなく「コガネムシ」と呼び、縁起のよい虫と考えている。年配の方に聞くと、「コガネムシの翅をタンスに入れておくと着物が増える」とか「財布に入れておくとお金が増える」などと言ってありがたがったものだと教えてくださる。「しかし、昔に比べて最近はコガネムシが減った」というお話もよく聞く。
 あるとき出張展示で昆虫標本を展示していたら、あるご婦人が箱の中のタマムシの標本を指さして「これが欲しいから売ってくれ」と言われたのには驚いた。「大切な資料ですから残念ながらお売りできません」とお答えすると、「最近見かけなくなったものだから久しぶりに見て欲しくなった」と笑っておられた。 昔に比べてタマムシを見なくなった、という話は房総に限らずあちこちで耳にする。タマムシの棲める環境が減っているのだろう。
 タマムシはさまざまな広葉樹の枯れ木に産卵し、幼虫はその木を食べて育つ。とくにエノキは好まれるようで、大きなエノキの枯れ木には多くのタマムシが集まる。8月下旬にもなるとタマムシの発生時期も終わりに近いようで、この日見た10匹近いタマムシは雌ばかりであった。おそらく交尾の時期は終わり、雌だけが産卵のために残っているのだろう。
 エノキに飛来した雌は木の表面を歩き回り、腹端から突き出した産卵管をせわしなく動かして、産卵に適した樹皮の割れ目を探っているようだった(写真4)。

 (尾崎煙雄)

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写真1
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写真2
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写真3
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写真4
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 エノキ Certis sinensis(アサ科【A】、ニレ科【E】)

 【A】:APGIII体系、【E】:新エングラー体系

 タマムシ Chrysochroa fulgidissima(タマムシ科)

 


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