No.1657 2018/12/12(水)

 樹幹流と泡


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 弱い雨の降る中、君津市と富津市の境界を成す稜線を目指して山に入った。途中、モミの木の根元に白い泡の塊があるのを見つけた(写真1)。まるで泡立てた石けん水のようだ。白い泡はモミの幹に沿って筋状に上方から続いている(写真2)。泡の筋はそこそこの速さで流れ下っている(写真3)。これは「樹幹流(じゅかんりゅう)」である。
 森に降った雨の多くは木々の枝葉に当たった後、しずくとなって地表に落下する。このように林内の空間を落下する雨水を「林内雨(りんないう)」という。しかし、一部の雨水は林内雨とは別に樹木の幹を伝って流れ下る。これを「樹幹流」という。
 樹幹流にはいろいろな物質が溶け込んでいる。なぜなら樹木の枝葉や幹にはさまざまな物質が付着しているからだ。それらは大気中を漂う微小な粒子や樹木自身から分泌された成分などで、泡の元になるような高分子も含まれていると思われる。森に降った雨水はまるで樹木を洗うシャワーのようにこれらの物質を溶かして流す。この日見つけた泡は、樹木の付着物が溶け込んだ樹幹流が泡立ったものだろう。
 しかし、こんなに目立つほど泡立った樹幹流を見かけることはあまりない。きっとよく泡立つには条件があるのだろう。たとえば、雨が強すぎれば樹幹流の水量が多すぎて溶け込む物質の濃度が薄まってしまうはずだ。逆に雨が弱すぎれば樹幹流が少なくて泡立つほどの流れを作らないだろう。また、前回の降雨から時間が経っていれば、それだけ樹木に付着した物質も多いはずだ。この日の雨は樹幹流が泡立つ条件が揃っていたようで、根元に泡を溜めた木が他にもいくつか見つかった(写真4)。

 (尾崎煙雄)

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写真1
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写真2
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写真3
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写真4
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 モミ Abies firma(マツ科)

 


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