No.1714 2019/07/11(木)

 コクラン


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 清澄山系にて。渓谷の林道沿いの岩壁に生えたコクランが開花した(写真1)。草丈30センチほどのこの株には、10個ほどの花が咲いているのだが、花が小さく、色が地味なので気づきにくい。

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写真1
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 コクランの花は不思議な形をしている(写真2)。ランの仲間の花には雄しべ、雌しべと6枚の花びらがある。花びらのうち3枚は「萼片(がくへん)」、残り3枚が「花弁(かべん)」で、花弁のうちの1枚が大きく目立ち「唇弁(しんべん)」と呼ばれる。しかし、コクランの花を見てもどれが萼片でどれが花弁なのやら、とてもわかりづらい。そこで写真に記号をつけてみた(写真3)。

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写真2
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 写真3の記号はそれぞれ、A:唇弁、B:側萼片、C:側花弁、D:背萼片、E:ずい柱である。最も大きな花弁である唇弁ですら幅は5ミリほどで、強く湾曲している(A)。側萼片は唇弁の左右に1対あり、幅3ミリほど(B、B’)。側萼片に隣接する側花弁は幅1ミリに満たない“ひも状”で、花の左右に1対ある(C)。写真では向こう側の側花弁は見えていない。唇弁からみて正反対の位置にある背萼片も側花弁に似て幅1ミリ強の“ひも状”である(D)。そして花の中心にある「ずい柱」は雌しべと雄しべが合わさった器官だ(E)。

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写真3
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 コクランの仲間の唇弁の付け根付近には2個の突起があるのが特徴だ。しかしこの突起はとても見えづらく、限界まで接近してようやく撮影することができた(写真4の矢印)。この突起の役割は不明だが、もしかしたら花を訪れた昆虫が止まるのに役立っているのかもしれない。

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写真4
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 ずい柱の先端には黄色い塊が2つある(写真5)。これは「花粉塊(かふんかい)」という。文字通り花粉の塊で、花を訪れた昆虫の身体に塊のまま付着して運ばれる。飛来する昆虫が唇弁に着陸すると、ちょうどその背中にずい柱の先端が当たり、花粉塊を付着させやすくできているようだ。人の眼には花らしく見えないコクランだが、昆虫との関係を考えれば巧妙にできているのがわかる。
 (尾崎煙雄)

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写真5
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 コクラン Empusa nervosa(ラン科)

 


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