No.1720 2019/08/01(木)

 コバネカミキリ


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 清澄山系にて。暗い林床の落ち葉の間に何かが落ちていた(写真1)。長さ3センチほどで、黒と白が見える。

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写真1
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 接近してみると、落ちていたのはカミキリムシの1種の死体であった(写真2)。黒っぽい身体に白いカビのようなものが生えている。

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写真2
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 仰向けの姿勢で落ちていた死体をひっくり返してみたら、このカミキリムシの種類がわかった(写真3)。コバネカミキリである。硬い前翅が短く、腹部の半分ほどしか覆われていないのが特徴だ。コバネカミキリは千葉県では記録の少ない種で、清澄山でも数例しか見つかっていない。私自身、生きたコバネカミキリをまだ見たことがない。初めての出会いが死体とは、不運なのか幸運なのか。しかし、これでも貴重なコバネカミキリの記録には違いない。

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写真3
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 カビのように見えるのはボーベリアの1種だ。ボーベリアとは昆虫寄生菌の仲間で、さまざまな昆虫に寄生する。広い意味では「冬虫夏草」の仲間であるが、明瞭な形の子実体(しじつたい)、つまり「きのこ」を作らない。持ち帰った標本を拡大して観察してみた(写真4)。ボーベリア菌は虫体全体を覆っているわけではなく、体節と体節のすき間から出ているのがわかる。昆虫に寄生したボーベリアは、虫の体内に菌糸(きんし)をはびこらせ、栄養を吸収した後、体節と体節の間の膜を突き破って虫の体外に菌糸を伸ばし、繁殖のための分生子(ぶんせいし)を作る。分生子は胞子と同様の粉状の細胞だが、胞子が有性生殖を担うのに対し、分生子は無性生殖を担う。
 (尾崎煙雄)

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写真4
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 コバネカミキリ Psephactus remiger remiger(カミキリムシ科)

 ボーベリアの1種 Beauveria sp.(コルジセプス科)

 


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