教室博日記 No.1769

 2020/02/13(木)

 ヒメコマツの調査

 房総丘陵にて。毎年、冬に行うヒメコマツの調査のため山に入った。渓谷を歩き、滝を登り、やせて険しい尾根に取り付いて息を切らしてよじ登った先にようやく1つめの目的のものが見える(写真1)。

崖に生えるヒメコマツの稚樹
  • 写真1

 垂直の崖の壁面に根付いたヒメコマツの若い木だ(写真2)。樹高は2メートルほど。この木に会うのは1年ぶり。元気に成長していることを確認した。房総丘陵のヒメコマツは絶滅が危惧される個体群で、丘陵全体でも100本以下しか確認されていない。この1本の若木はとても貴重な存在で、この山のヒメコマツの将来を担う存在なのだ。

稚樹のアップ
  • 写真2

 さらに尾根を登ると、今度はヒメコマツの実生(みしょう)がある(写真3)。高さは30センチほどしかないが、これでも種子から芽生えて10年以上は経っている。野生のヒメコマツの初期成長は多くの場合とても遅い。これもまた次世代を担う貴重な存在だ。過去には、多くの実生が盆栽や庭木用に採取された時期がある。それも房総のヒメコマツが減った一因と考えられる。

ヒメコマツの実生
  • 写真3

 さらに尾根を登り、この日の最後の目的地に到着した。ここは「補強試験地」と呼んでいる場所だ(写真4)。「補強」とは、数が減った野生生物の集団に人為的に新たな個体を導入して、集団の健全性や持続可能性を高める試みのこと。この試験地では、将来的に房総のヒメコマツ集団に補強が必要になるかもしれないという前提の下に、補強の手法を検討するための実験を行っている。8年前に合計28本の苗木を植え、その後の生存や成長過程をモニタリングしている。苗木はすべて、房総丘陵産の種子から育てたものだ。

補強試験地の様子
  • 写真4

 植えた時には高さ50センチ前後だった苗木は順調に成長し、今は高さ3メートルを超えたものも少なくない。さらに、今年初めて球果をつけた個体もあった(写真5)。

球果をつけた苗木
  • 写真5

 ただし、球果は小さく中の種子も未熟だったようだ(写真6)。つまり、まだ一人前の大人とは呼べない。しかし球果があるということは花が咲いた証拠だ。今後は、5月の開花期の調査も追加する必要がありそうだ。

まだ小さい球果
  • 写真6
  • ヒメコマツ Pinus parviflora var. parviflora(マツ科)

(尾崎煙雄)