教室博日記 No.1771

 2020/02/17(月)

 ハヤブサ

 海の近くにそそり立つ断崖絶壁の鋸山は、その印象的な景観から観光地としても有名である。この見事な景観は、火山灰が堆積した凝灰岩が、江戸時代から「房州石」として石材用に切り出され、自然に人間が手を加えて生み出された。なお、鋸山の「房州石」は、つい先日の2020年2月6日に千葉県が発表した「千葉の地層10選」にも選定されている。

 そんな鋸山の中でも代表的な名所である「地獄のぞき」から、1羽のハヤブサを発見した(写真1)。断崖絶壁が広がる鋸山一帯は、いかにもハヤブサが営巣場所や休息場所として好みそうな環境である(写真2、3)。

  • 写真1 鋸山を飛ぶハヤブサ
  • 写真2 崖地が広がる鋸山一帯
  • 写真3 鋸山は海からもほど近い

 とは言え、千葉県において、学術論文で報告されたハヤブサの繁殖記録は、御宿町で確認された布留川・柳(2019)の1例しかない。ハヤブサは、千葉県レッドリスト動物編2019年改訂版で、それまでの「重要保護生物」から「最重要保護生物」にランクアップされた。

 ハヤブサに限らず、希少種の繁殖やそれをうかがわせる行動などの情報は積極的に集められ、その保護に役立てられるべきである。一方で、写真撮影などを目的として不用意に巣に接近する一部の心ない人間の行為が、野鳥の繁殖失敗を招く例が後を絶たない。繁殖記録の報告においては、地点や環境などの情報をどの程度まで詳細に明かすべきか、慎重な判断が求められる。情報公開の基準の検討や観察モラルの普及は、研究と保護の両方が推進されるために博物館でも取り組むべき重要な課題である。

  • ハヤブサ Falco peregrini (ハヤブサ科)
  • 【参考文献】
  • 布留川毅・柳研介(2019)千葉県におけるハヤブサ Falco peregrini の繁殖記録. 千葉生物誌 68(2): 63-68.

(平田和彦)