教室博日記 No.1780

 2020/03/06(金)

 怒田沢の土石流堆積物(地層+倒木)

 三島小から南東の方向、高宕山へ向かう遊歩道の入口あたりに、怒田沢(ぬたざわ)という地域がある。周囲を山に囲まれた盆地状の地形で、最も低い平坦な部分(小糸川の旧河道?)は水田が広がり、斜面との間の少し高いところに集落が分布している(写真1)。

  • 写真1 怒田沢の盆地状の地形

 細かい谷に刻まれた斜面には、ところどころ緩やかに傾斜した扇状地状の地形が見られ、その末端は盆地底に達している(写真2)。これらの地形は、かつて集中豪雨などの際に、斜面の一部が崩れ、支流の小河川の水流と一緒に土砂が流れ下って堆積した土石流扇状地(沖積錐)である。

  • 写真2 怒田沢の土石流扇状地

 このような地形は、小糸川の中~上流部によく見られるが、ほとんどの場合、樹木に覆われていて、地形を作る堆積物を観察することができない。しかし今回、怒田沢の山麓を歩いていたところ、基盤の比較的硬いシルト~粘土(安房層群天津層)の上に、数メートルのブロック状の岩塊が載っているのを見つけた(写真3)。ブロックは径数cm~15cmくらいのシルト質の角礫と風化した粘土層からなり、炭化した樹木なども含む(写真4)。これはまさに土石流扇状地をつくる堆積物である。斜面上部の不安定な部分が、何かのはずみに落ちてきたものであろうと思い、反対側に回ってみると、上部が切り取られた倒木の残骸?であった(写真5)。

  • 写真3 斜面上部から落ちてきたブロック状の堆積物
  • 写真4 大きさの異なる角礫と風化した粘土からなる
  • 写真5 反対側に回ると倒木の残骸だった

 このような根元に表層の地層(あるいは土壌)をつけたままの倒木を、ここ半年くらい房総半島のあちこちでよく見かける。ほとんどは昨年の9月に発生した台風15号の強風による倒木であろう。千葉市の青葉の森公園内などでは、樹木の途中からばっさり折れているものが多いが、このような斜面では樹幹の重さと強風に耐えかねて、根元から表層土をつけたまま崩れ落ちている。ここでは土石流堆積物(新しい堆積物なので土壌の発達はよくない)であったが、稜線沿いに、基盤の泥や砂をつけたまま倒れているような樹木もあった(写真6)。

  • 写真6 峰山の稜線上の地層+倒木

 このような地層+倒木は、地学屋からすると、ふだん簡単に観察できない地層が眼の前で見られるというプラス面もあるが、千葉県を襲った大きな自然災害の痕跡であることを忘れてはいけないと思う。

(八木令子)