教室博日記 No.1812

 2020/06/04(木)

 小屋を食べるクロトサカシバンムシ

 清澄山系にて。廃虚となった作業小屋の裏に生えるイヌマキ(写真1)の葉裏に、じっととまっているクロトサカシバンムシを見つけた(写真2)。

クロトサカシバンムシがいたイヌマキの木
  • 写真1
イヌマキの葉裏に止まるクロトサカシバンムシ
  • 写真2

 クロトサカシバンムシは体長5〜7ミリほどのシバンムシ類の中では大型種だ。上に大きく盛り上がった前胸背(頭ではなく胸)に、冠のように毛を蓄えて鶏冠(とさか)のように見えることから和名に「トサカ」が付く。全身毛で被われるが、特にトサカの毛は長くて立派だ(写真3)。

胸にあるトサカのような立派な毛
  • 写真3 正面から見たところ

 シバンムシ類は滅多に見られる甲虫ではない(屋内で貯蔵食品を加害して大発生するタバコシバンムシなど一部の例外はあるが)。イヌマキの他の葉裏を探すとなんとあちこちにいるではないか(写真4)。

あちこちに止まっているクロトサカシバンムシ
  • 写真4

 最初、この種はイヌマキと何か関係があるのだろうか、とも考えたが、重要文化財の木造建造物がこの種の幼虫に加害されたという記録がある(小峰,2011)ので、ひょっとしてこの小屋が発生源か?と思いついた。

 そこで小屋を観察してみると、木材にはシロアリ被害の他にシバンムシの食害痕のような穴も見られ(写真5)、さらに小屋のトタンの壁(写真6)や木材、すぐ前に生えるイズセンリョウの葉裏でも成虫を発見することができた。見た個体は皆ほとんど動かず、何かを食べている様子は観察できなかった。交尾も見られなかったがペアでいることが多く、小屋の周辺が雄と雌の出逢いの場となっているのだろう。

クロトサカシバンムシの食害痕のある小屋
  • 写真5
小屋のトタンの壁に止まるクロトサカシバンムシ
  • 写真6
  • クロトサカシバンムシ Trichodesma japonica (ヒョウホンムシ科)
  • タバコシバンムシ Lasioderma serricorne (ヒョウホンムシ科)
  • イヌマキ Podocarpus macrophyllus (マキ科)
  • イズセンリョウ Maesa japonica (サクラソウ科)
  • 【引用文献】
  • 小峰幸夫・林 美木子・木川りか・原田正彦・三浦定俊・川野邊渉・石崎武志(2011):日光の歴史的建造物で確認されたシバンムシ類の種類と生態について. 保存科学(50), p.133-140.

(斉藤明子)