教室博日記 No.1825

 2020/06/27(土)

 秋元城址-水が集まる場所

 小糸川中流の小高い丘陵上(写真1)にある秋元城址を、今年度山FMの担当になった斉藤さんと訪ねた。昆虫専門の斉藤さんは、最長6m伸びるという昆虫採集用の網を、私は地学用ハンマーを持ち、2人とも城跡を見に行くという出で立ちではないが、秋元城址入口という案内板のある道を歩き始めた。

  • 写真1 秋元城址がある丘陵

 少し登ると平坦な草むらが広がっている(写真2)。小糸川沿いに分布する河岸段丘面であるが、草むらに入ってみると、意外に凹凸がある。背後の谷から流れてきた土砂が段丘面上に載っているのであろう。ここは「根古屋」(山城の麓にあった城主などの屋敷地)であったようだ。山道を歩き始めるといきなり倒木で道がふさがれている(写真3)。昨年の台風の被害によるものだろう。それらをよけながら急な坂道を登っていくが、朝方まで降っていた雨水にぬれた泥岩層がツルツル滑って歩きにくい。しばらく行くと、狭くて暗い山道から少し開けたところに出るところに、「虎口」(曲輪の出入り口)という表示があった(写真4、5)。このあたりから砂層あるいは砂と泥の互層になり、あちこちでその境目から水が湧いていた。

  • 写真2 ふもとの平坦面(河岸段丘面)
  • 写真3 山道に入ったとたん昨年の台風の倒木が道をふさぐ
  • 写真4 虎口(曲輪の出入り口)の表示
  • 写真5 暗く狭い道から開けた場所へ出る

 さらに行くと、山頂部の広くて平坦な千畳敷にたどり着いた(写真6)。この場所と南側の「西向三段」と言われている段々の地形(写真7)の周辺に、秋元城の主な遺構(建物跡など)が残され、発掘調査で確認されている。この山頂部の平坦面は主に砂層からなるが、雨水が浸透しやすく谷ができにくいので平坦面として残っている。一方平坦面の両側は深く広い谷になっており(写真8)、泥岩層からなる谷壁は切り立った崖で(写真9)オーバーハングしているようなところもあった。泥層は比較的硬く水を通しにくいが、隙間に雨水が入り込むと、脆くなってどさっと大きく崩れてしまう。そのため泥の部分は傾斜が急になるが、山城の周囲であればそれが自然の懸崖となり、秋元城の場合も敵を寄せ付けない防御壁になっていたようだ。

  • 写真6 山上の平坦面(千畳敷)
  • 写真7 城の遺構がある西向三段
  • 写真8 深い谷 谷の中は倒木などで荒れていた
  • 写真9 硬くて脆い泥岩層からなる谷壁斜面

 また広い谷底は、城の縄張り図(君津市市史編さん委員会編, 2001など)によると、緩傾斜のところを段々にならして、棚田にしていたようで、谷頭部には池跡も描かれていた。山中からの湧水が豊富なので、水には困らなかったのであろうか。池跡(湿地)を見てみたいと思ったが、尾根から谷にかけて倒木が折り重なってかなり荒れており、谷底まで降りていくことはできなかった。その中には樹木の幹が途中から折れ曲がっているだけでなく、根の部分から土壌ごとはがれて、斜面の向きとは逆の方向に倒れているような生々しいものもあった(写真10、11)。房総の山の土壌は薄いというが、実際数十センチメートル程度の薄い層が地面からはがれて、その下の地層がむき出しになっている(写真12)。倒木被害のうち、このような状態を「根がえり」というのだそうだ(斉藤さん談)。台風時の風の力というのは計り知れない。

  • 写真10 土壌ごとはがれた倒木
  • 写真11 千畳敷の崖端 斜面の傾斜方向と逆向きに根がえっている
  • 写真12 薄い土壌ごと地面からはがれ、むき出しになった地層

 さて今回、歴史的な背景についての予備知識がほとんどないまま城跡を歩いたが、城の立地には地域の歴史や城主側の事情だけでなく、地形や地質などの自然条件も重要であろうことは想像できる。山の中に城を置くということは、単に戦いやすく防御や見張りにも好都合ということだけでなく、そこである程度人が暮らせることが必要であり、そのためには水があり、米などが少しでも作れるということがポイントであろう。そういう点でこの地域は水には恵まれている。小糸川が近くを流れることもそうだが、地中からの湧き水も豊富である。これは重要なことだったのではないかと思う。

 なおこのあたりから湧く水は、メタンガスやヨウ素を含む約70万年前の地層(上総層群粟倉層の泥岩など)から出てきているもので、層準によっては茶水といわれる「化石海水(かん水)」を含む場合がある(教室博日記No.1581)。戦国の人も「かわった水だな」とは思っていたかもしれない。

  • 【参考文献】
  • 君津市市史編さん委員会編(2001):君津市史 通史編. 君津市.
  • 小高春雄(2018):房総里見氏の城郭と合戦. 281pp. 戎光祥出版.

(八木令子)