教室博日記 No.1847

 2020/08/09(日)

 シカの樹皮はぎ

 房総丘陵にて。見慣れない模様の樹皮を見つけた(写真1)。

  • 写真1 見慣れない樹皮

 いったい何の木だろうと視線を上げると、モチノキであった(写真2)。房総丘陵ではモチノキはとくに珍しいものではない。見慣れないと感じたのはその樹皮が地表から1.5メートルくらいまで剥(は)ぎ取られていたからだ。

  • 写真2 樹皮を剥ぎとられたモチノキ

 モチノキの樹皮を剝いだ犯人はニホンジカの可能性が高い。シカの前歯は下あごにしかない。その前歯をノミのように下からあてがって樹皮を剝がし、栄養のある「内樹皮(ないじゅひ)」の部分を食べたものと思われる。その痕が「見慣れない模様」となっているのだ(写真3)。

  • 写真3 樹幹に残るシカの歯の痕

 シカはおもに草木の葉を食べるが、餌が少なくなると樹木の樹皮を剝いで食べるようになることが知られている。房総丘陵ではシカによる樹皮食いはこれまであまり目立たなかったが、シカの密度が増え、餌が減ってきたことの証拠かもしれない。樹皮を剝がれた樹木は枯れることもあり、森に対するインパクトは大きい。

  • モチノキ Ilex integra(モチノキ科)
  • ニホンジカ Cervus nippon(シカ科)

(尾崎煙雄)