教室博日記 No.1849

 2020/08/13(木)

 ニジオビベニアツバの幼虫

 清澄山系にて。同行のMさんが歩道の土の斜面を歩くおかしなイモムシを見つけてくれた(写真1)。体長は約3センチ、ニジオビベニアツバの幼虫だ。ニジオビベニアツバは南方系のヤガ科の一種で、千葉県では2011年に君津市で初めて見つかったばかりである(斉藤, 2011)。全国的に南から分布を拡大中のようで、2012年以降、清澄山系でもたくさん採れるようになった(斉藤ほか, 2017)。

斜面を歩くおかしなイモムシ
  • 写真1

 それにしてもこの幼虫は変わった姿をしている。毛虫といえば毛虫なのだが毛の先が太く扁平になっている(写真2)。図鑑には食草はイヌビワとあるので、一枝入れてやったが気に入らないのかほとんど食べなかった。翌日、メロンの皮を置いたら残っていた果肉をおいしそうによく食べた。食べている間ずっと、あちこちの毛を上げたり下げたりしている(動画)。ひとしきり食べたらじっとしてしまった。

先が太く扁平なニジオビベニアツバの幼虫の毛
  • 写真2

 その2日後、イヌビワの葉の主脈の両側に大きく非対称な形に切り目が入っていた。蛹室(ようしつ)を作り始めたのだ。幼虫は糸を吐いて切った葉を合わせて閉じてゆく(写真3)。切り取られている部分の形が左右で非対称なのは蛹室の蓋のためだ。だんだんとすき間が閉じていき、最終的にはピタッとすき間の無い見事なカプセルになっていた(写真4)。この種に限らないが、昆虫は親に習うことも無く、なぜこのような細工がうまくできるのだろうか。不思議でならない。

ようしつを作るニジオビベニアツバの幼虫
  • 写真3
完成したようしつ
  • 写真4
  • ニジオビベニアツバ Homodes vivida(ヤガ科)
  • イヌビワ Ficus erecta(クワ科)
  • 【引用文献】
  • 斉藤修(2011) 君津市でニジオビベニアツバを採集. 房総の昆虫(48): p.43.
  • 斉藤明子・尾崎煙雄・宮野伸也・鈴木 勝・斉藤 修・村川功雄・倉西良一(2017) 東京大学千葉演習林(千葉県南部清澄山系)の昆虫相,千葉中央博自然誌研究報告特別号(10): p.61‐232.,vii‐xvi(pls.1‐10).

(斉藤明子)