教室博日記 No.1855

 2020/08/27(木)

 キンモウアナバチ

 清澄山系にて。地表に直径2センチほどの穴があり、体長3センチほどの黒いハチが盛んに出入りしていた(写真1)。これはキンモウアナバチだ。

  • 写真1

 キンモウアナバチは南方の昆虫で、以前奄美大島でこのハチを初めて見たときには「かっこいいハチだ」と感激したものだ(写真2)。

 しかし長瀬・渡辺(2018)には「南方系のアナバチ。本州の太平洋側では神奈川県の相模川西岸が永らく分布の東限だったが、数年前から分布地域が拡大し始め。最近では東京都・千葉県にまで広がった」との記述があり、清澄山系でも2019年に見つかった。

奄美大島で撮影したキンモウアナバチ
  • 写真2 奄美大島で撮影したキンモウアナバチ

 後翅(うしろばね)の付け根の直後から細くくびれた「ウエスト」部分までの部分を「前伸腹節(ぜんしんふくせつ)」といい、この部分に黄褐色の毛が密生している(写真3)。これが「キンモウ(金毛)」の由来であろう。

清澄産キンモウアナバチの標本(黒いバーは1cm)
  • 写真3 清澄産キンモウアナバチの標本(黒いバーは1cm)

 顔にも金毛が密生している(写真4)。興味深いのは口器の形で、右の大あごが極端に大きく鉤状に曲がっていて、まるで昔馬に引かせて田畑を耕すのに使った犂(すき)という農具を思わせる。きっと穴を掘るのに適した形なのだろう。

キンモウアナバチの顔
  • 写真4 キンモウアナバチの顔

 巣穴掘りの様子を動画で撮影してみた。後ずさりしながら穴から出てきた雌は頭よりも大きな土の塊をくわえており、穴の外に塊を捨てた後、今度は前進しながら穴の周辺の土を前脚でかいて後方に飛ばして穴に戻る。この動作を繰り返してどんどん穴を掘っていく。

 穴が完成した後、雌はキリギリスの仲間を捕らえて針で刺し麻酔をかけてから穴に運び込み、卵を産み付ける。このハチの幼虫は仮死状態のキリギリスの仲間を餌として成長する。

  • キンモウアナバチ Sphex diabolicus(アナバチ科)
  • 【引用文献】
  • 長瀬博彦・渡辺恭平(2018) ハチ目.神奈川県昆虫誌2018[III]:934-1038.

(尾崎煙雄)