教室博日記 No.1901

 2020/12/18(金)

 サラシナショウマ

 清澄山系にて。調査地に向かう林道で岩壁から垂れ下がるようにサラシナショウマの花が咲いていた(写真1)。11月5日のことだ。

  • 写真1 2020年11月5日撮影

 サラシナショウマの花序は「試験管ブラシ」にたとえられる(写真2)。白い花が花茎を360度取り囲むように咲き、まさにブラシのようだ。

  • 写真2 サラシナショウマの花序 2020年11月5日撮影

 サラシナショウマのつぼみはがく片に包まれていている(写真3)。

  • 写真3 サラシナショウマのつぼみ 2019年11月6日撮影

 開花するとがく片はすぐに脱落してしまう。花の基部には小さな花弁があるがこれも目立たない。目立つのはまっすぐ放射状に伸びた2〜30本の雄しべで、これがブラシの毛のように見えるのだ。花の中央には雄しべに混じって2〜3本の雌しべがある。雌しべの先端近くはややふくらみ、その先にあるわずかに湾曲した突起は柱頭(ちゅうとう)という。柱頭は花粉を受け止める部分だ(写真4)。この写真の花は雄しべと雌しべがある両性花だが、雌しべを欠く雄花もある。

  • 写真4 サラシナショウマの両性花 2019年11月6日撮影

 半月後に同じ場所を訪れると、サラシナショウマの花は終わり緑色の未熟な果実に変わっていた(写真5)。面白いことに、花茎の上側の果実はまっすぐ上を向いているのに対して、花の時には花茎から下側を向いて咲いていたものは果柄を湾曲させて上を向こうとしている。

  • 写真5 サラシナショウマの幼果実 2020年11月19日撮影

 さらに1ヶ月後にはサラシナショウマの果実が褐色にかわっていた。どうやら熟したようだ(写真6)

  • 写真6 サラシナショウマの果実 2020年12月18日撮影

 採集した果実をよく観察してみた(写真7)。サラシナショウマの果実は長さ8ミリほどで楕円形の「さや」のような形をしている。「さや」の片側が縦に割れ、果実が開いている。このような形の果実を「袋果(たいか)」という。

  • 写真7 サラシナショウマの袋果

 開いた袋果の中には種子が入っているのがわかる(写真8)。先端の突起は雌しべの柱頭の名残だ。

  • 写真8 袋果の中の種子

 取り出した種子は長さ3ミリほどの扁平な楕円形で、周囲には鱗片状の翼が多数ついている。袋果を下に向けたり少し揺らしたりすると、この種子がこぼれ、ひらひらと舞って落ちる。種子を遠くに飛ばすには無風の日には種子を落とさない方がよい。サラシナショウマの幼果実ががんばって上を向こうとしていたのはこのためだったのだ。

  • 写真9 サラシナショウマの種子
  • サラシナショウマ Cimicifuga simplex(キンポウゲ科)

(尾崎煙雄)