教室博日記 No.1934

 2021/03/26(金)

 キケマン

 南房総市の海沿いにて。黄色い花をつけた草がたくさん生えている(写真1)。キケマンだ。

黄色いキケマンの花
  • 写真1

 初めて聞くとどこで区切ってよいのか一瞬迷う名前だが、漢字で書くと「黄華鬘」、つまり黄色い華鬘(けまん)という意味。華鬘とは仏前に吊るす飾りのこと。同じケシ科のケマンソウの花が華鬘に似ていることからつけられ、そのケマンソウに似ていて花が黄色いという理由でつけられた名前らしい。

 キケマンのチャームポイントは、黄色い花よりも果実の中の種子にあると思う。果実は「さく果」と呼ばれるタイプで、熟すと裂けて種子を放出する(写真2)。

低木ハマゴウの下に咲くハマダイコン
  • 写真2 花の下の豆のさやのようなものが果実

 果実を割いてみた(写真3)。黒い種子が2列に並んで入っている。

キケマンの黒い種子
  • 写真3

 種子を拡大したのが写真4。

拡大したキケマンの種子
  • 写真4

 種子は直径1.7ミリでやや扁平な丸型。この種子を覆うように透明の物体がついている。飴細工のように美しい造形だ。これは、エライオソームと呼ばれ、糖や脂肪酸などでできたアリの大好物である。果実が裂けて落ちた種子は、エライオソーム目当てのアリによって巣の近くまで運ばれる。アリは不要な種子を巣のまわりの柔らかい地面に捨てるので、キケマンはそこで発芽することができるという仕組み。このようにアリに種子を運んでもらう散布方法のことをアリ散布と呼ぶ。

 アリ散布は春に花を咲かせる草に多い。エライオソームの形もいろいろだが、多くはシンプルな「白い塊」である。キケマンのエライオソームがなぜこんな形なのか不思議だ。美しい「羽衣」をまとった種子を作っていながら、キケマンは全草有毒であり悪臭もあるので注意が必要である。

  • キケマン Corydalis heterocarpa(ケシ科)

(西内李佳)