教室博日記 No.2078

 2022/02/25(金)

 滝川のびゃくしん

 館山市にて。川の中での調査の合間に、河岸段丘上に生える「滝川のびゃくしん」の前で休憩した(写真1)。

  • 写真1 滝川のびゃくしん

 「滝川のびゃくしん」は木幡神社の御神木とされ、館山市の天然記念物に指定されている。解説板によると、樹齢800年と言い伝えられているそうだ(写真2)。

  • 写真2 滝川のびゃくしんの解説板

 ビャクシンは、ヒノキ科の常緑針葉樹イブキの別名。海岸沿いの岩場に自生するほか、社寺や庭園などに植栽される。よく庭木や街路樹にされる園芸品種に、カイヅカイブキがある。イブキよりもこちらのほうが目にする機会は多い(写真3)。

  • 写真3 カイヅカイブキ

 「滝川のびゃくしん」とは、じつは12年ぶりの再会。館山市で10年以上ぶりに再会した巨樹といえば、沖ノ島のタブノキもそうだった(教室博日記No.1898)。沖ノ島のタブノキは2019年に千葉県を直撃した台風15号の被害で倒れてしまっていたが、「滝川のびゃくしん」は無事なようで一安心。無事どころか、12年前の写真と見比べてみてもほとんど変化を感じない(写真4)。御神木とされる理由はこういうところなのかもしれない。

  • 写真4 12年前の滝川のびゃくしん(2010年6月撮影)

 この日(写真1)のほうが全体的に茶色っぽく見えるが、それは花がついているからだ。目立たない花なので近づいて見ないとわからないが、ほとんどの枝先についている(写真5)。

  • 写真5 滝川のびゃくしんの花

 イブキは雌雄別株。「滝川のびゃくしん」は雄株で、これは雄花だ。同じヒノキ科のスギやヒノキとよく似た花である。スギやヒノキは花粉症で有名になってしまったが、これらの花粉症に罹る人が多いのは、全国的に植林されたために個体数が圧倒的に多いからである。スギやヒノキの個体数には遠く及ばないだろうが、カイヅカイブキを含めると市街地に植栽されたイブキは結構多い。特に房総南部では多い印象だ。目の前の「滝川のびゃくしん」を眺めながら、イブキ花粉症というのはないのだろうかとちょっと気になった。

  • イブキ(ビャクシン) Juniperus chinensis var. chinensis(ヒノキ科)
  • カイヅカイブキ Juniperus chinensis 'Kaizuka'(ヒノキ科)
  • スギ Cryptomeria japonica(ヒノキ科)
  • ヒノキ Chamaecyparis obtusa(ヒノキ科)

(西内李佳)