教室博日記 No.2093

 2022/04/14(木)

 木材の中に棲むカモメガイモドキの化石

 富津市内にて。この場所では、数千年前の内湾にたまった泥質砂層が観察できる。崖下に長径18センチ程度の木材の化石が落ちていた。砂と泥を落とすと、木材の中心部は空洞で、縁辺部に2センチ程度の二枚貝の化石を見つけた(写真1)。

  • 写真1 長径18センチ程度の木材に穿孔するカモメガイモドキの化石(黄色三角)

 この木材からは、他にも二枚貝の化石が見つかるかもしれない。ドキドキしながら、木材を一層剥がすと、イチジク形の巣穴にすっぽりと収まる二枚貝が姿を現した(写真2)。

  • 写真2 巣穴の中に収まるカモメガイモドキの化石(黄色三角、殻長は大きな個体で約2センチ)

 カモメガイモドキと呼ばれる二枚貝だ。教室博日記(No.2083)では、やわらかい泥岩に巣穴を掘るニオガイという穿孔貝を紹介した。カモメガイモドキも穿孔貝の一種で、海面を漂う流木や海底に横たわる沈木に巣穴を掘って、一生を巣穴の中で過ごす。

 この木材からは、合計13個体のカモメガイモドキの化石が得られた。炭質物が殻の表面にこびりついていたので、3個体をオキシドールに漬け置きして、有機物を除去した。一晩経つと、だいぶきれいになった(写真3)。

  • 写真3 オキシドールに付け置きした直後(左)と一晩後(右)のカモメガイモドキの化石(容器の直径は約6.5センチ)

 カモメガイモドキの殻表面を観察すると、細かい突起をたくさん備えている(写真4)。大工道具のノミが殻表面にたくさん生えているかのようだ。貝殻の開閉・回転・前後運動によって、殻表面の突起を巣穴の壁面に押し当てて、木材を削ってゆくらしい。

  • 写真4 カモメガイモドキの殻表面に見られる突起

 とても機能的な構造に感心してしまう。しかし、カモメガイモドキは困った奴でもある。現在の海では、木製の杭や船は穴だらけにされてしまう。樹脂製のパイプやプラスチックに穴をあけた事例まで報告されており、様々な材質の構造物を壊してしまう。人間が利用しない木材にだけ穴をあけて欲しい。

  • カモメガイモドキ Martesia striata(ニオガイ科)

(千葉友樹)