フィールドノート No.2104

 2022/04/30(土)

 地震で隆起したカモメガイ

 館山の見物(けんぶつ)海岸にて。この場所では、地震による隆起の痕跡を観察できる(写真1)。

  • 写真1 見物海岸の階段状の地形(スケールは丸の中の人、黄色矢印は写真2の撮影方向)

 波打ち際の岩礁では、波による侵食によって平坦面がつくられる。岩盤が隆起すると、この平坦面は海面よりも高い位置に持ち上げられる。隆起後の海岸でも、波による侵食が進むと、新しい平坦面がつくられ、新旧の平坦面の間は崖となる。これが繰り返されることで、階段状の地形ができる。写真1の平坦面のうち、高位が元禄地震(1703年)、低位が大正地震(1923年)の隆起にそれぞれ関連しているらしい。

  高位と低位の平坦面の間の崖は、現在は海水をかぶらない高度にある。この場所にあるくぼみも、過去の波による侵食でつくられたものだ(写真2)。

  • 写真2 崖に見られるくぼみ(黄色三角、撮影方向と高位の平坦面の位置は写真1を参照)

 くぼみの壁面に貝類の巣穴を見つけた(写真3)。巣穴の一部が壊れ、貝殻がなくなっている場合も多いが、カモメガイの貝殻だ。カモメガイは波打ち際付近に棲む二枚貝なので、ここが地震によって隆起したことがわかる。

  • 写真3 現在は海水を被らない場所にある貝類の巣穴(黄色三角は貝殻が抜け落ちた巣穴、緑色三角は貝殻が残っている巣穴)

 カモメガイのような、岩石などに巣穴を掘って生活する貝類を穿孔貝(せんこうがい)と呼んでいる。この場所では、カモメガイの殻表面を観察しやすいものはなかったが、殻表面にはやすりのような突起がある(写真4)。貝殻の開閉・回転・前後運動によって、殻表面の突起を巣穴の壁面に押し当てて、岩石を削って巣穴を掘るらしい。

  • 写真4 数千年前のカモメガイの巣穴と貝殻の化石(殻長は約3.5センチ、館山市内の他の場所で撮影)

 現在の岩礁では、生きている穿孔貝を見ることもできる。潮だまりの軟らかい砂岩は穴だらけだ(写真5)。この中からは、ニオガイという穿孔貝が見つかる(写真6)。教室博日記No.2083では、ニオガイの化石を紹介した。

  • 写真5 潮だまりの軟らかい砂岩に見られる穿孔貝の巣穴
  • 写真6 生きているニオガイ(殻長は約2.4センチ)
  •  吸盤状の足(写真右側の軟体部)で巣穴の壁面に付着し、水管(写真左側の軟体部)から海水を吸いこんで、有機物を食べる。貝殻の大きさと比較して、軟体部が大きい。

 見物海岸では、生きている穿孔貝と地震によって隆起した穿孔貝を一度に見られるので、海だった場所が陸になったことをイメージしやすい。

  • カモメガイ Penitella sp.(ニオガイ科)
  • ニオガイ Barnea fragilis(ニオガイ科)

(千葉友樹)