フィールドノート No.2105

 2022/05/05(木)

 カズサヒロコバネ

 君津の山中にて。沢に近い湿った林床で、あちらこちらの葉上に小さなガが止まっていた(写真1)。カズサヒロコバネというコバネガ科のガだ。

  • 写真1 カズサヒロコバネ成虫(君津市にて、2022年5月5日)

 飛び立ってはすぐに近くの葉に舞い降りる。飛ぶのはあまり得意ではなさそうだ。翅を開いても1センチほどしかないが、翅は金色や青紫色に輝いている(写真2)。

  • 写真2 カズサヒロコバネ成虫(木更津市にて、2022年4月20日)

 カズサヒロコバネは千葉県では特別のガだ。何が特別かというと、チョウ・ガ類の中で唯一の千葉県固有種で、しかも房総丘陵でしか見つかっていないのだ。つまり、世界で房総丘陵にしか生息していないガということだ。

 この種が属するコバネガ科は、ジュラ紀の終わり頃(約1億8000万年前)に登場し、チョウ・ガ類の中でもっとも古い系統であるとされている(今田,2015)。成虫はストロー状の口器ではなく、発達した大顎を持っている。

 幼虫はジャゴケの表層の組織を削り取るように食べる。昨年12月、教室博物館のある旧三島小敷地内のジャゴケで幼虫の姿を確認している(写真3)。体長はわずか5ミリほどだ。今ごろこの幼虫も成虫になっているはずだ。

  • 写真3 カズサヒロコバネ幼虫(旧三島小学校にて、2021年12月10日)
  • 【参考文献】
  •  今田弓女(2015) 日本列島のコバネガの食草利用の進化と分布形成. 昆虫と自然50(14):14-18.
  • カズサヒロコバネ Neomicropteryx kazusana(コバネガ科)
  • ジャゴケ Conocephalum conicum(ジャゴケ科)

(斉藤明子)