フィールドノート No.2123

 2022/06/02(木)

 コクサギ

 君津市の山中にて。渓谷から上を見上げると、特徴のある樹木の枝が目に入った(写真1)。

目に入った特徴のある樹木の枝
  • 写真1

 1本の茎や枝に対する葉の付き方(並び方)を葉序(ようじょ)といい、代表的なものに次の3種類がある。互い違いに葉がつく互生、同じ場所に2枚の葉が左右対称につく対生、同じ場所に3枚以上の葉がつく輪生だ。しかし、葉の付き方がこの3種類のどれにもあてはまらない植物がある。コクサギがまさにそうだ。

 コクサギの枝先を見るとわかるが、葉のつき方が「右、左、左、右」のようになっている。互い違い、という点では互生の一種なのかもしれないが、一般的な互生とは明らかに違う。このような葉の付き方を、その名も「コクサギ型葉序」と呼ぶ。コクサギをちゃんと見たことがなくても名前は知っている、という人もいるかもしれない。

 コクサギは葉のつき方だけではなく、果実も特徴的だ。写真1で、中央より少し上に写っている緑色の光沢のあるものが、コクサギの若い果実、写真2はその拡大。

  • 写真2 若い果実(拡大)

 コクサギの果実は、種子を弾き飛ばす自動発射装置になっている。外果皮が開くと、中で種子を包むように折り畳まれていた内果皮がバネのように種子を弾き飛ばすという仕組みらしい(写真3)。

  • 写真3 左から、外果皮、内果皮、種子

 広い部屋にコクサギの果実を置いて実験した結果によると、なんと最大9.3メートル(転がり距離含む)種子が飛んだそうだ(中西,1994)。「コクサギの果実に目を近づけてはいけない」と言われるのも納得だ。

 コクサギの種子発射の瞬間はなかなか見られるものではない。そこで、収蔵庫のさく葉標本で確認すると、種子が飛び出す直前で時が止まったような標本がいくつかあった(写真4)。採集した植物をさく葉標本にする際には乾燥機で急速に乾燥させるので、このように一瞬を固定したような様子が観察できることがある。

  • 写真4 外果皮から内果皮が覗き、中の種子も見えている

 種子発射の仕組みはわかったが、やはりコクサギの種子が飛ぶ瞬間をなんとかして動画撮影したいものである。

  • 【参考文献】
  • 中西弘樹(1994)種子はひろがる 種子散布の生態学.平凡社,256pp.
  • コクサギ Orixa japonica(ミカン科)

(西内李佳)