フィールドノート No.2125

 2022/06/02(木)

 チバニアンを理解するための地域の観察会

 2020(令和2)年1月に、市原市田淵の地磁気逆転地層が、地球の歴史の時代境界を示す模式層断面及びポイント(GSSP)であると国際地質科学連合によって認定され、地質時代名のひとつが「チバニアン(期)」と呼ばれるようになって話題を呼んだ。

 その直後に始まった新型コロナの感染拡大、博物館の講座・観察会などの行事も軒並み中止となっていたが、今年度に入りようやく元に戻りつつある。

 地学研究科が担当する中央博の地質の日関連観察会「チバニアンを見てみよう」も、3年目にしてようやく実施することができた。昼食を挟まないなど、通常より時間は短く、人数も少なめにしての開催であったが、現地で地磁気逆転地層や時代の決め手となった火山灰層などについて解説し、養老川河床に見られるチバニアン期より古い時代の貝化石や生痕化石(生物の活動の跡)を観察した(写真1~3)。また周辺の河川地形や河岸段丘など、特徴的な地形景観とその成り立ちについても説明した。

  • 写真1 地質の日関連観察会「チバニアンを見てみよう」の参加者
  • 写真2 地磁気逆転地層の露頭の前での説明を聞く、この後数人ずつに分かれて観察した
  • 写真3 アクリル板を通して河床の化石を観察する

 その数週間後に、今度は地元のNPO法人が運営しているチバニアンガイドの養成講座の一環として、田淵地域の観察会が行われた。講師は中央博共同研究員の吉村光敏氏(元地学研究科長)である。

 チバニアンガイドというのは、地磁気逆転地層を見学に訪れる人に対して、チバニアンのことはもちろん、周囲の景観や地層、地域の歴史などについて解説する人たちで(写真4)、地元を初め、市原市内外からも希望者を募っている。NPO法人が企画する養成講座で地質や岩石、古生物、地形など各専門家の講義を受け、接客や救急救命などを学び、現地でわかりやすく話す練習を重ねた上で、初めて見学者の前に立つという。

  • 写真4 露頭の前で解説するチバニアンガイド(写真提供:NPO法人田淵チバニアンズ)

 このガイド養成講座の観察会では、地磁気逆転地層の露頭(写真5)とは全く別の場所にある田畑が広がる平坦面や(写真6)、それより少し高い段々の地形を歩いた。これらは、かつてそこに川が流れていたことを示す河岸段丘という地形で、丸い礫を含む段丘礫層で構成されている(写真7)。

  • 写真5 市原市田淵の地磁気逆転地層
  •  露頭にはGSSP(国際境界模式層断面とポイント)を記念するゴールデンスパイクのレプリカが打ち込まれていた。
  • 写真6 かつて養老川が流れていた平坦な地形
  • 写真7 段丘堆積物 河原にあるような丸い礫が見られる

 現在の養老川河床とは数十メートルの比高があり、数千年間で川が大地を削り込んでいったことがわかる。またある時期、養老川が大きく蛇行していたことを示すような大きな蛇行跡も見られ(図1)、現在とは川の流れの様子が違っていたことが想像できる。

  • 図1 市原市田淵の地形分類図(吉村・八木,2021を基に作成)
  •  養老川右岸の大きな三角形(緑の格子柄)が、かつて養老川が大きく蛇行していた跡(田淵蛇行跡)、色が塗ってあるのが河岸段丘(高い方からⅠ~Ⅴ面)。

 これら地形の分布や成因は、地磁気逆転地層やチバニアン期の地層とは直接に関わりはないが、この露頭周辺のことは何を聞かれるかわからないというチバニアンガイドにとっては、必須の、知っておくべき項目なのである。この他、養老川支流沿いにかつて見られた連続型の川廻し地形の名残りともいえる「川廻しトンネル」(写真8)や、流路変更によってできた不動滝、河床に残る様々な杭跡なども観察し、「古人の知恵」に思いを馳せた。

  • 写真8 養老川支流(図1の北水路)沿いの小さな川廻しトンネル

 余談であるが、この日河岸段丘の堆積物を観察する場所で、参加者一同ヤマビルに遭遇した。その場で何とか撃墜したが、若干1名、観察会の講師が被害にあった。チバニアンガイドへの道もなかなか手強そうである。

  • 【参考文献】
  • 吉村光敏・八木令子(2021) 養老川中流、市原市田淵の地磁気逆転地層露頭周辺の地形景観とその成り立ち. 千葉中央博研究報告 15(2):61-72.

(八木令子)