フィールドノート No.2140

 2022/07/10(日)

 ヤノクチナガオオアブラムシ

 鴨川市内にて。森の中で、ケヤキの幹に縦に伸びる黒っぽい帯があるのを見つけた(写真1)。

  • 写真1

 これは蟻道(ぎどう)と呼ばれるアリの工作物だ(写真2)。アリが土の粒などを運んで木の幹などの表面にトンネル状の構造を作り上げ、その中で暮らしているのだ。この蟻道は幅5センチを超える立派なものだった。

  • 写真2

 アリには気の毒だが蟻道を壊してのぞいてみると、中には太った虫がいた(写真3)。これはヤノクチナガオオアブラムシというアブラムシの一種で、体長は5ミリほど。アブラムシとしてはかなり大型である。隣には蟻道を作ったアリが写っている。ハヤシケアリのようだ。

  • 写真3

 ヤノクチナガオオアブラムシを含むクチナガオオアブラムシの仲間は体長と同じくらいある長い口吻(こうふん)を持つ。写真4の右下には長い口吻を持つ幼虫が写っている。写真4左上の成虫はストロー状の口吻を樹皮の下に差し込んで師管液(しかんえき)を吸っている。光合成産物を含む師管液は糖分が豊富で、アブラムシは余った糖分を甘露としてお尻から分泌する。写真4にはアブラムシのお尻に水滴のような甘露が見える。

  • 写真4

 すかさずアリがやってきて、アブラムシの甘露をなめ取っていった(写真5)。ヤノクチナガオオアブラムシはこのように蟻道の中でアリに守られて暮らしている。アリから見れば、甘露を生産してくれる家畜のようなものとも言える。

  • 写真5
  • ケヤキ Zelkova serrata(ニレ科)
  • ヤノクチナガオオアブラムシ Stomaphis yanonis(アブラムシ科)
  • ハヤシケアリ Lasius hayashi(アリ科)

(尾崎煙雄)