フィールドノート No.2154

 2022/07/30(土)

 宝の山ならぬ「宝の海岸」-鴨川松島、八岡海岸で石ころを拾う

 2022年7月30日、今夏最高の海水浴日和に、海岸で石ひろいをした。場所は外房の鴨川松島、八岡海岸。まるでプライベートビーチのようなこぢんまりとした砂浜と水色の海、点々と浮かぶ岩礁(写真1)。新型コロナ感染拡大の影響か、人の数は少ないようだが、久しぶりに海水浴の風景が広がっていた。

  • 写真1 鴨川松島の八岡海岸

 この日は、八岡海岸で地学野外観察会「海岸で石ころをひろってみよう」が開催され、中央博の岩石・鉱物担当のT研究員と数人の地学ボランティア主導の下、参加者は嬉々として石拾いに熱中した。種類がわからない石は研究員に同定をしてもらい、詳しい説明を聞きながら観察した(写真2~4)。

  • 写真2 まずは説明を聞きます
  • 写真3 親子で石拾い
  • 写真4 T研究員の説明を聞く参加者

 「石なし県」といわれる千葉県だが、八岡海岸には大小の岩石が多数見られる。黒っぽい石やくすんだ緑色、灰色、白っぽいものと、見た目は一見地味だが(岩石に派手なものはあまりない)、割れ目を見るとひとつひとつに違いがある(写真5)。全体に深緑色の蛇紋岩や黒っぽい玄武岩、白くてプラスチックのような石灰質の頁岩、斑れい岩、凝灰岩、礫岩など、種類も豊富で、石好きにとっては「宝の山」ならぬ、「宝の海岸」なのである。

  • 写真5 海岸に見られるいろいろな種類の石

 これらは、八岡海岸の背後にある嶺岡山地(写真6)などから崩れ落ちてきたものである。海岸に川が流れ込んでいれば、上流から運ばれた石の可能性もあるが、ここは流れ込む河川はなく、背後の嶺岡山地は地すべり発生地域でもあるので、稜線附近から崩れ落ちた岩体が直接波に洗われ、丸い石ころになって海岸に転がっているのである。

  • 写真6 八岡海岸背後の嶺岡山地、稜線と八岡海岸の間の斜面に地すべりが発生

 実際のところ嶺岡山地の稜線部の露頭の大部分は、細かく砕かれた蛇紋岩体からなり(写真7)、ところどころに見られる地形的ピークは、玄武岩などからなる。

  • 写真7 嶺岡山地の稜線部に見られる蛇紋岩の露頭

 蛇紋岩は、もともと地球内部のマントルをつくるかんらん岩が水を含んで変質したもので(高橋・大木,2015)、火成岩(厳密には変成岩)に含まれる。そのような地下深部の物質が、房総半島の山の稜線部に見られるというのはどういうことだろうか。また蛇紋岩と一緒に見られる玄武岩も、地下に根(火道)があるわけではなく、ブロック状に蛇紋岩に取り込まれているという(図1)。つまり嶺岡の玄武岩は、かつてこのあたりで火山の噴火があって、マグマが地上で冷えて固まってできた岩石ではないということだ。

  • 図1 嶺岡山地の中はどうなっている?(高橋,2022)

 近年の研究で、これらは房総半島からはるかに離れた太平洋の海底やフィリピン海、あるいは日本列島周辺から、海洋プレートの動きに伴って移動してきたものといわれている。それらが海溝で大陸の下に沈み込む際に、一部が剥ぎ取られて日本列島の前面(房総南部のあたり)に付け加わり、その後地下深部から上昇してきたと考えられている。

 海岸に落ちている石のひとつひとつが、このような長くダイナミックな地球のなりたちと深く関わっていると思うと、何か不思議な感じがする。

  • 【参考文献】
  • 高橋直樹・大木淳一(2015) 石ころ博士入門. 173pp., 全国農村教育協会
  • 高橋直樹(2022) 地学野外観察会 「海岸で石ころをひろおう」資料

(八木令子)