フィールドノート No.2166

 2022/08/25(木)

 可憐なシマキンギョと殻の分厚いキクスズメ

 君津市内の河原にて。この場所では約100~80万年前の海底にたまった砂礫層が観察できる。河原に露出した砂礫層には貝化石が見られる(写真1)。写真1の白っぽく見える部分が貝化石で、中央の目立つ貝化石はタマキガイだ。

  • 写真1 川底に露出した砂礫層(レンズキャップの直径は約6センチ)

 河原には貝化石を含む転石があったので、ハンマーで割ってみた。よく見つかるのはシマキンギョという膨らみの強い二枚貝だ(写真2、3)。

  • 写真2 シマキンギョの化石(目盛りの単位はミリ)
  • 写真3 シマキンギョの化石(写真2を拡大したもの)

 殻が薄くて割れやすい上に、殻表面の彫刻も繊細で、何とも可憐な二枚貝だ。現在も深い海の砂泥底に棲んでいるが、貝殻が海岸に打ち上げられることはまずない。そんなシマキンギョがここではたくさん見つかる。

 しばらく転石を割っていると、今度は笠型で殻が分厚い貝化石を見つけた(写真4、5)。キクスズメという貝だ。現在も浅い海の岩礁に棲む貝で、貝殻が海岸によく打ち上げられる。岩礁に棲むアワビなどの殻に付着して生活している。

  • 写真4 キクスズメの化石(目盛りの単位はミリ)
  • 写真5 キクスズメの化石(写真4を別な角度から撮影したもの、目盛りの単位はミリ)

 深い海の砂泥底に棲むシマキンギョと浅い海の岩礁に棲むキクスズメが同じ地層から見つかるとはおもしろい。海底で起きた土石流によって浅い海に棲むキクスズメが深い海に流れ込んだのだろうか。キクスズメの分厚い貝殻は、その過程でも壊れなかったのかもしれない。この場所では、200種類位の貝化石が報告されている。多種多様な貝化石を見ていると、想像力が膨らむ。

  • タマキガイ Glycymeris aspersa(タマキガイ科)
  • シマキンギョ Keenaea samarangae(ザルガイ科)
  • キクスズメ Sabia conica(スズメガイ科)

(千葉友樹)