フィールドノート No.2184

 2022/10/02(日)

 空中静止したコナラのどんぐり

 元清澄山系にて。森を歩いていてふと見上げると樹冠のすき間に青空がのぞいていた(写真1)。気持ちのよい快晴だ、と心の中でつぶやいた次の瞬間、何か違和感に襲われた。

  • 写真1

 「ん?」と思ってよく見ると、青空に丸っこい何かが浮かんでいるのであった(写真2)。虫かとも思ったがまったく動かない。

  • 写真2

 数秒の困惑の後にようやくそれがどんぐりであることに気づいた(写真3)。よく見るとクモの糸も見える。コナラのどんぐりがクモの糸に引っかかって空中静止しているのだ。まるでどんぐりが枝から落ちる途中で時間が止まってしまったかのように。

  • 写真3

 殻斗(かくと;いわゆるどんぐりの帽子)の取れたどんぐりは全体につるっと丸く、クモの糸が引っかかるところなどないように思われるが、1か所だけ小さな突起がある。それはどんぐりの先端にある「柱頭(ちゅうとう)」だ(写真4)。柱頭とは花の雌しべの先端にあって花粉を受け止める器官だが、どんぐりの先端にはこの柱頭が残っているのだ。

  • 写真4 コナラのどんぐり 2004/8/26清和県民の森にて

 それにしても細いクモの糸に1ミリほどしかない柱頭がうまく引っかかる確率はずいぶん低いように思う。珍しいどんぐりの空中静止を見られたのは運がよかったのだろう。この網の主であるジョロウグモ(写真5の左上に写っている)にとっては迷惑なごみかもしれないが。

  • 写真5
  • コナラ Quercus serrata(ブナ科)
  • ジョロウグモ Nephila clavata(ジョロウグモ科)

(尾崎煙雄)