フィールドノート No.2220

 2022/12/21(水)

 朽ちたエノキ

 清澄山系にて。4年前から見守ってきたエノキの伐倒木の様子を久しぶりに見に行った(写真1)。

朽ちたエノキ伐倒木
  • 写真1

 以前はこのエノキに多くの食材性や食菌性の虫が集まっていた。時間の経過と共に集まる虫の変化も見られ、この伐倒木にはずいぶんと楽しませてもらった。千葉県からこれまで記録の無かった種など、貴重な昆虫がこの木から何種も見つかっている。

 写真2は4年前の夏の様子。美しいヤマトタマムシ(赤矢印)が産卵に訪れていた。

  • 写真2 エノキに飛来したヤマトタマムシ(赤矢印)(2018年8月22日撮影)

 2年後の2020年の秋には苔生してキノコも生え、食菌性のゴミムシダマシ類などがたくさん集まってとても賑やかだった(写真3)。

  • 写真3 苔生したエノキ(2020年10月8日撮影)

 さらに次の年、2021年の春には、やや乾燥が進んだ(写真4)。

  • 写真4 やや乾燥が進んだ(2021年4月27日撮影)

 そして、直近の様子(写真1、5)。太い幹もほとんど折れて地面に転がっていた。

  • 写真5 朽ちたエノキ(2022年12月21日撮影)

 地面に落ちた太い枝には、ヤマトタマムシの成虫がこの材から脱出するときに空けた古い孔がたくさん残っていた(写真6)。すでにこのエノキはタマムシの幼虫の生育には向かないため、今後この木からタマムシが出てくることはもう無い。

  • 写真6 ヤマトタマムシの古い脱出孔(2022年12月21日撮影)

 これまで、この一本のエノキによってどれだけの生きものが育まれただろうか。冬という季節感もあるが、祭りが終わってしまったような、なんとも寂しい感じがした。しかし、この木が土にかえるのはまだまだ先だ。朽ちた木材を好む昆虫もいるだろう。もうしばらく、このエノキを取り巻く生きものの様子を見届けたいと思う。

  • エノキ Celtis sinensis(アサ科)
  • ヤマトタマムシ Chrysochroa fulgidissima(タマムシ科)

(斉藤明子)