フィールドノート No.2268

 2023/06/13(火)

 残り物には福がある、チビツクエガイの化石

 この日は、6/11(日)の体験イベント「チバニアン期の貝化石を拾ってみよう」(フィールドノートNo.2267)の後片付けを行った。合計102人ものイベント参加者によって、貝化石を含む砂が篩(ふるい)にかけられた。参加者が気に入った化石は、持ち帰っていただいたが、拾い終わった後の残りはバケツに入れてまとめておいた(写真1)。

  • 写真1 バケツにまとめられた残り物(バケツの直径は約30センチ)

 この中には素敵な貝化石が残っているかもしれない。このような衝動に駆られた私は、後片付けもほどほどにして貝化石を拾い始めた。しばらくすると、とっくり型の物体を3個見つけた(写真2)。この物体には、貝殻片や砂が取り込まれている。

  • 写真2 とっくり型の物体(目盛りの単位はミリ、黄色三角は貝殻片、橙色三角は写真3の撮影方向)

 先端には、ひょうたん型の穴があいている(写真3)。

  • 写真3 とっくり型の物体の先端(ひょうたん型の穴の直径は約2ミリ、写真2の右側の標本を橙色三角の方向から撮影)

 この中に何か入っているのだろうか。試しに1つ割ってみた(写真4)。すると、中からチビツクエガイと呼ばれる二枚貝の化石が見つかった(写真5)。

  • 写真4 とっくり型の物体を割ってみた(目盛りの単位はミリ、写真2の中央の標本、黄色三角はチビツクエガイの貝殻)
  • 写真5 チビツクエガイの貝殻(目盛りの単位はミリ、写真4のとっくり型の物体から取り出したところ)

 写真2の物体は、チビツクエガイが作った棲管(せいかん)だったようだ。棲管をつくるときに周囲にあった貝殻片や砂は、棲管の表面に取り込まれる。写真3のひょうたん型の穴は、チビツクエガイの生時に海水の交換に使われるらしい。チビツクエガイの成長に伴って新しい棲管が付加されることで、節が形成される(写真6)。この特徴的な節を「ロールパン状」と表現した研究者もいる。確かによく似ている(写真7)。

  • 写真6 チビツクエガイの棲管(写真2の中央の標本を拡大、黄色三角の部分に節がある)
  • 写真7 ロールパン(目盛りの単位はミリ、橙色三角の部分に節がある)

 チビツクエガイの棲管は特徴的だ。しかし、貝殻は棲管の中に収まり、外からは見えない。このような目立たない二枚貝のためか、当館の化石コレクションの中には、登録標本がひとつも見当たらない。残り物には福があるとはこのことで、後で登録して大切に保管する予定だ。

  • チビツクエガイ Cucurbitula cymbium(ツクエガイ科)

(千葉友樹)