フィールドノート No.2275

 2023/07/05(水)

 まさにプロの技、万田野層の剥ぎ取り標本製作

 君津市内にて。この場所では、万田野層と呼ばれる約60万年前の地層が観察できる(写真1)。

  • 写真1 万田野層の露頭(白い四角形は地層の剥ぎ取り標本を製作中の場所、四角形は約1.2×1.2メートル)

 大規模な斜交層理(地層に見られる斜めの縞模様)が見事だ。陸棚上でサンドリッジと呼ばれる砂山が、潮流や海流などの水流で移動するときに、このような大規模な斜交層理が形成される。万田野層の場合、砂を運搬した水流の候補として黒潮が有力らしい。地層の観察を通して、当時の陸棚上で形成されたサンドリッジの断面を見ているのだ。

 この斜交層理を来館者に見ていただくため、地層の剥ぎ取り標本を製作することが今日の目的だ。この日は、標本製作のプロと一緒なので、大船に乗った気持ちだ。標本製作のことは、事前に地権者に説明し、快く許可をいただいている。

 まず、地層を剥ぎ取りたい場所の凹凸をねじり鎌を使って平坦にする(写真2)。その後、薬剤を地層に塗って、裏打ち材を貼る(写真3)。薬剤が固まった頃合いを見て、地層を裏打ち材と一緒に剥ぎ取る(写真4)。地層を剥ぎ取る瞬間は、プロでも緊張するらしい。

  • 写真2 地層の凹凸を平坦にする(写真中央の四角形の場所は凹凸を平坦にした部分、四角形は約1.2×1.2メートル)
  • 写真3 地層に薬剤を塗って裏打ち材を貼る
  • 写真4 地層を剥ぎ取る

 剥ぎ取った地層は左右が逆転するが、地層を構成する粒子の実物標本だ。粒子の配列や積み重なった順序も実物そのもので、斜交層理も転写される(写真5)。欠落なく地層を剥ぎ取ることができた。まさにプロの技だ。

  • 写真5 万田野層の剥ぎ取り標本(約1.2×1.2メートル)

 その後、剥ぎ取り面の洗浄や安定化処理を通して、写真5の状態よりも斜交層理がはっきりと見えるようになった。何とか特別展の開幕に間に合ったので、ほっとした。特別展「よみがえるチバニアン期の古生物」(会期:令和5年7月15日~令和5年9月18日)では、万田野層を含めた県内3か所で製作した地層の剥ぎ取り標本を展示しているので、ぜひご来館いただきたい。

(千葉友樹)