フィールドノート No.2302

 2025/6/27(金)

 キョンの死体に集まる昆虫

 東京大学千葉演習林での調査中、キョンの死体が落ちていた。滑落してしまったようだ。沢沿いで滑落事故によって死んでしまったニホンジカはよく見るが、キョンは初めて見た。大量のキンバエをかき分けて、死体に近づくとキンバエの他にも腐肉に集まる昆虫が多く集まっていた。

    写真1 キョンの死体。閲覧注意。

 まずはセンチコガネ。本種は糞に集まっているところをよく目撃する。キョンの死体そのものではなく、周囲を歩き回っていた。

    写真2 センチコガネ。本個体を撮影中に別の個体も次々に飛来した。

 同じコガネムシの仲間であるゴホンダイコクコガネも集まっていた。本個体はオスで、5本のツノがかっこいい。シカの糞によく集まるため、シカの増加とともに個体数を増やしたと考えられている。

    写真3 ゴホンダイコクコガネ。写真撮影後すぐに地面に潜ってしまった。

 次は、赤い前胸背板が特徴的なベッコウヒラタシデムシ。都市公園では本種に似て、全身真っ黒のオオヒラタシデムシを観察することができる。本個体はキョンの上を動き回っていたが、他の個体は周辺の石などの障害物やキョンの下に潜り込んでいた。

    写真4 ベッコウヒラタシデムシ。20匹ほど集まっていた。

 キョンから少し目線を上げると、多くのキンバエが周囲の枝や葉に止まっていることに気がついた。キョンの死体の周りで暴れている得体の知れない生き物から逃げて近くの場所に避難しているかと思ったが、どうも様子がおかしい。近づいて確認すると全ての個体が死んでいた。同行していた菌類担当研究員に聞くとハエカビの仲間ということ。次々に飛来するハエがだんだんと動かなくなっていく姿を観察することができた。

    写真5 ハエカビ。フラッシュを焚いて撮影したら、実際に見るより不気味な雰囲気となった。

 この他にも多数の生き物が集まっていた。これらの生き物は、死体を分解し、解体している森の掃除屋さんである。キョンの死体から分解者の生活の一端を見ることができた気がした。

  • キョン Muntiacus reevesi (シカ科)
  • ニホンジカ Cervus nippon (シカ科)
  • キンバエ Lucilia caesar (クロバエ科)
  • センチコガネ Phelotrupes (Eogeotrupes) laevistriatus (センチコガネ科)
  • ゴホンダイコクコガネ Copris (Copris) acutidens (コガネムシ科)
  • ベッコウヒラタシデムシ Necrophila (Calosilpha) brunnicollis (ハネカクシ科)
  • ハエカビ目の1種 Entomophthorales sp.

(樽宗一朗)