活かして残す −保存と活用−

 1996 (平成8) 年10月には文化財保護法の一部改正により 「文化財登録制度」 が実施され,緩やかな規制の中でこれらの近代の文化遺産,特に産業,交通,土木に関わる対象も含め文化財として保存・活用する施策が始まりました。2000年7月現在で1778件が登録有形文化財として登録されていますが,これらの中に,近代の産業,交通,土木に関わる対象も登録されてきました。

 この制度は,行政主導というよりは,所有者の意志を尊重しつつ,自発的な保護をはかろうというものです。身近に埋もれた歴史的遺産を生き返らせ,活用することで地域のアイデンティティーの確立と活性化を期待する制度です。今後は,その文化財をまちづくり等に積極的に活用することが望まれます。

ここではこれら文化財を活用している例を紹介します。

とねうんが・みずべこうえん
利根運河・水辺公園
柏,野田,流山を流れ,利根川と江戸川を結ぶ全長8.4qの利根運河は1890(明治23)年に通船営業を開始した。そして,1941(昭和16)年の洪水で航路が使用不能になるまでの50年間,通船路としてその役割を担った。運河開通の結果,距離にして38q,日程にして3日を1日に短縮することができた。現在,運河岸上には遊歩道も完備され,自然環境にも恵まれ,かつ水路自体もほぼ完全な形で残されている,千葉県における明治期の近代化遺産のひとつとして極めて貴重な土木施設となっている。

___________/きゅうかんぎょうぎんこうほんてん
千葉トヨペット本社/旧勧業銀行本店
[千葉市美浜区/1899(明治32)年]
設計者,妻木は,アメリカで建築学を修めドイツ派遣された経験を持つ官僚建築家として名を馳せバロック的手法を得意とした。また, 武田はイギリスを中心として,ヨーロッパにおいて多大な刺激を受け,帰国後最新のアールヌーボーやゼッションのデザインを建築に取り入れたことで知られている。2人が手掛けたこの建築は和風でありながら,どこかヨーロッパ的なものを感じさせる。中央の玄関は唐破風等で飾られている。そして,左右に伸びる建物の中心軸を際立たせることにより,左右対称を強調する雄大な構成を見せている。現在,千葉トヨペットの本社として,ショールームとして活用されている。

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______ちくごがわきょうりょう
旧佐賀線筑後川橋梁
[福岡県・佐賀県/1935(昭和10)年]
1987年(昭和62)年3月28日に廃止された旧国鉄佐賀線は,佐賀駅(佐賀県)と瀬高駅(福岡県)の24.1qを結ぶローカル線であった。佐賀線の途中の筑後川に架かる橋が筑後川橋梁で,橋長506.4m,昇開部24.2mの昇開式可動橋。これは,橋の下を大型船が通行するため,中央が昇降する仕組みになっている。旧国鉄の橋梁の中でも珍しいものである。現在,遊歩道として保存・活用され地域おこしの目玉となっている。撮影:三沢博昭

____________/きゅうかなもりれんがそうこ
函館ヒストリープラザ/旧金森煉瓦倉庫
[北海道函館市/1909(明治42)年]
1907(明治40)年函館大火で6棟を類焼したが,煉瓦倉庫を再建し,1909(明治42)年5月に完成した。昭和後期に入ると輸送形態の変化や北洋漁業の縮小などによって倉庫業はかつての勢いを失った。一方で建造物としての金森倉庫群が注目されるようになり,今では函館の観光スポットにはかかせない存在となった。現在,コンサートホール,ビヤホール,レストラン,ショッピングモールなどとして活かされている。撮影:三沢博昭

まいづるれんがそうこ
舞鶴煉瓦倉庫
[京都府舞鶴市/明治期]
「横浜町づくり研究会」が協力して,1990年赤煉瓦シンポジウムが開催され,舞鶴の煉瓦倉庫が全国的に紹介された。このことがきっかけとなり,煉瓦倉庫の保存活用が決定し,1993(平成5)年旧海軍魚雷庫を「赤レンガ博物館」に利用している。1994(平成6)年には第三砲銃庫が「市政記念館」として再利用された。また,野外コンサートなども倉庫跡で行われ多くの見学者が訪れるようになった。撮影:三沢博昭

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_____せんきょ__________
旧横浜船渠株式会社第二号船渠(ドック)
[横浜市西区みなとみらい/1896(明治29)年]
_________/きゅういなばちはいすいとう
名古屋市演劇練習館/旧稲葉地配水塔
[愛知県名古屋市/1937(昭和12)年]

明治初期横浜のインフラ整備に大きく貢献したパーマーと海軍技師恒川柳作の共同設計。現在の第2号ドックは解体された1万2000個の石を使用し,ドックの全長を21m短くして復元した。長さ104m,幅27m,深さ10mで,下から見上げると3階建ての高さに相当する。

 現在,ランドマークタワーと一体的に造られたドックヤードガーデンは,来訪者の憩いの場やイベントスペースとして利用されている。

 国内ではじめての保存・活用型の国の重要文化財として平成9年に指定された。撮影:三沢博昭

名古屋市演劇練習場(アクテノン)は,白いギリシャ風の演劇の練習専用の施設。1937(昭和12)年に稲葉地配水塔として建設され1975(昭和40)〜1991(平成3)年は図書館,1995(平成7)年から現在の演劇練習場として生まれ変わった。外観もさることながら,市民会館や文化会館とはちがい,その名の通り演劇の練習のための施設は他に例がなくユニークな施設である。1989 (平成元)年に名古屋市都市景観重要建築物に指定された。


きゅうこうべきょりゅうちじゅうごばんかん
旧神戸居留地十五番館
[兵庫県神戸市/1880(明治13)年]
旧外国人居留地に唯一残る洋風建築。居留地時代に外国商館のひとつとして建築され,一時アメリカ領事館として使用していた。阪神・淡路大震災では壊滅的な被害を受けたが,完全に復元され,喫茶店として現在公開されている。撮影:三沢博昭

神戸市水の科学博物館
[神戸市/1917(大正6)年]
1889(平成元)年の神戸市政100周年と1990(平成2)年の水道給水90周年を記念して,歴史的建造物である奥平野浄水場の急速ろ過場上屋を保存,再生し「水の科学博物館」として平成元年にオープンした。ドイツ風の重厚で,かつ優美な外観が賞賛され,日本建築学会によって,特に保存すべき近代建築物としてリストアップされた。設計者は 河合浩蔵で明治・大正期に活躍したドイツ派の建築家,官庁建築の専門家でもある。撮影:三沢博昭

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