甲冑とはなにか

目次

1.甲冑とは何か

2.甲冑の歴史概要
(1)古代

(2)中世
(3)近世

ことばの説明




1.甲冑とは何か
防具の一つで、戦闘の際、身体を保護するものをいいます。 時代によって違いますが、甲は鎧(よろい)、冑は兜(かぶと)のことをさします。 「よろい」は、身体のうちに胴体に着用する防御具の総称であり、「かぶと」は頭部の防御具です。 鉄・金銅・皮革などでつくられています。
2.甲冑の歴史概要
(1)古代
大鎧
腹巻
腹当

古墳時代には、三角形や長方形の鉄板を革綴じあるいは鋲(びょう)どめして形成し、草摺(くさずり)を別に設けた板物甲(いたものよろい)と、長さ数十センチの細片に断った鉄小札(てつこざね)を横にからみ連ね、かわ緒(お)や組糸で威(おど)したてて形成した小札甲(こざねよろい)との2種類がありました。 板物甲には、衝角付冑(しょうかくつきかぶと)眉庇付冑(まびさしつきかぶと)および頸甲(あかべよろい)肩甲(かたよろい)籠手(こて)臑当(すねあて)などの小具足(こぐそく)が添えられました。 これらは構造上徒立(かちだち)戦用の甲冑と考えられています。小札甲にも、衝角付冑や眉庇付冑のほか頸甲・肩甲・籠手・臑当などの小具足が添えられますが、構造上、騎乗用の甲冑とされています。 奈良時代には綿を主体とし五彩をもって甲板の形を描いた大陸伝来の新様式、綿甲がこれらに加わります。
(2)中世
武士の私的な防具として発生し、騎馬戦用に発達した初期の鎧は、戦いの中で整備され、さまざまな甲冑様式の成立をみます。 大きく分けると、大鎧(鎧)腹巻(はらまき)腹巻鎧(はらまきよろい)胴丸(どうまる)腹当(はらあて)の五種類です。 それぞれが特徴ある構造をしているが、これらを構成する要素は共通しており、札(さね)金具廻(かなぐまわり)革所(かわどころ)が基本です。一方、兜には、星兜(ほしかぶと)筋兜(すじかぶと)の二種類があり、やはり札、金具廻、革所、そしてから構成されます。
(3)近世
室町時代末期以降、堅固・軽装で、一定の方式のない当世具足(とうせいぐそく)が出現します。 大きな特徴は、身体を鎧ですっぽり覆い尽くす一方で、軽く動きやすいことにあります。 形式種類には、本小札具足(ほんこざねぐそく)伊予札具足(いよざねぐそく)本縫延胴具足(ほんぬいのべどうぐそく)縫延胴具足(ぬしのべどうぐそく)切付小札胴具足(きりつけこざねどうぐそく)・最上胴具足(もがみどうぐそく)桶側胴具足(おけがわどうぐそく)南蛮胴具足(なんばんどうぐそく)仏胴具足(ほとけどうぐそく)仁王胴具足(におうどうぐそく)畳胴具足(たたみどうぐそく)段替胴具足(だんがえどうぐそく)雪の下胴具足(ゆきのしたどうぐそく)などがあります。

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ことばの説明
衝角付冑
(しょうかくつきかぶと)
正面に鎬(しのぎ)の立った鉢に数段のしころを付けた冑
眉庇付冑
(まびさしつきかぶと)
丸鉢に文様を透かし彫りした装飾的な大形の眉庇を設けた冑
頸甲
(あかべよろい)
古墳時代に使われた「よろい」の一部品で頸のまわり・肩胸・背の上部を覆うように作られたもので、後世の「満知羅」(まんちら)に類似する。挂甲(けいこう)・短甲(たんこう)に用いられており、『日本書記』に散見する。
肩甲
(かたよろい)
古墳時代に用いた鎧の部品。短甲(たんこう)では鉄板で作り、挂甲(けいこう)では小札(こざね)を綴り、半円形にして、頸鎧(あかべのよろい)と連結し、胸、背の上部から上膊部を守るもの。
籠手
(こて)
筒袖状の家地に上膊・下膊・臂・手甲に防御の座盤を置いたものをいう。鎌倉時代以降座盤は鎖で繋ぐのを普通とし、筒籠手・篠籠手・鎖籠手・産籠手(うぶごて)などの種類と様々の形式が行われた。古くは「手纒」(たまき)「臂覆」(たおおい)といった。
臑当
(すねあて)
ひざからくるぶしまでを護る小具足(こぐそく)で、籠手とともに上古(じょうこ)から用いられている。馬上での戦闘が盛んになると、下脚部の防護のため必要不可欠のものとなった。
大鎧
(よろい)
平安時代中頃から室町前期に製作された。金物や文様染の革などで華飾されていて美しく、おもに上級武士が騎馬戦用に着用した。鉄の薄板金や革を長方形に載断した小札を革または糸で威した。草摺(くさずり)は四間、胸に栴檀板(せんだんのいた)、鳩尾板(きゅうびのいた)をつけ、兜は厳星(いがぼし)兜を用いた。
腹巻
(はらまき)
鎌倉時代末期から江戸時代にかけて製作された。腹巻は、名のごとく、胴が正面から左右脇および背面両側に続き、背中で引き合わせるように作られている。胴丸より簡便で元来、鎧や衣の下に着込んだ。南北朝以後、兜や大袖をつけて、武将も戦陣で用いるよになった。草摺は五間あったが室町時代には七間に変わっている。
腹巻鎧
(はらまきよろい)
騎射に適した大鎧と、徒立(からだち)に有利な胴丸の長所をともに摂取し、外容・機能ともに優れた甲冑を創造しようとする意図をもって考案された折衷式の甲冑である。大鎧が軽装化を志向して生じた模索的な甲冑の一様式。
胴丸
(どうまる)
大鎧と同時代につくられたもので、大鎧に比べて、小形で軽く、機能性にすぐれている。はじめ、徒歩で戦う下卒が袖のかわりに杏葉(ぎょうよう)をつけて用いた。徒歩戦が広く行われるようになると、これに大袖をつけて、上級の武士も着用するようになり、飾もつけられた。草摺は八間に分かれ、徒歩に適するように工夫されている。
腹当
(はらあて)
鎌倉時代から江戸時代につくられた腹当は、甲冑の中では最も軽量で、簡単なものである。胴の前部と両脇のみをおおい、おもに下卒が用いたが、時には上級武士の軽武装用に用いられた。のちに腹巻に発展したと考えられる。草摺は三間で短い。

(さね)
最も重要なもので、甲冑構成上の基本をなす。素材は牛革や鉄を原則とし、その形状などにより本小札(ほんこざね)・伊予札(いよざね)・板札(いたざね)などの別がある。札にはその種類に応じた一定の小穴を穿ち(うがち)、横にからみ連ね、あるいは威毛(おどしげ)を通すための用とする。
金具廻
(かなぐまわり)
体を防護し、札頭(さねがしら)への当たりを柔らげ、また、甲冑の形態を保ち、あるいは各種の緒や綰(わな)を取り付けるなど広範な用途を有する。
革所
(かわどころ)
甲冑に使用されている革所には兜{裏張(うらばり)・浮張(うけばり)、吹き返しの包み韋(ふきかえしのつつみがわ)}・胴{肩上(わたがみ)、弦走韋(つるばしりがわ)、蝙蝠付(こうもりづけ)、胴の裏包韋(うらづつみがわ)}・袖{矢摺韋(やずりのかわ)、籠手摺韋(こてずりのかわ)}・金具廻に貼る絵韋(えがわ)、また用途によってこれを分類すれば、実用を主としたもの・実用と装飾を兼ねたもの・装飾を主としたものとなる。
星兜
(ほしかぶと)
兜鉢を構成するときに矧板(はぎいた)を星鋲(尖起した鉄)で留めたものをいう。時代によって星の大きさ・形が異なる。
筋兜
(すじかぶと)
板金(いたがね)を平鋲留(ひらびょうどめ)に矧ぎ合わせ、補強と装飾のため板金の縁をひねり返して筋を立てた鉢で、星兜と好対照をなす。普通、表裏を黒漆塗りとし、星兜の制にならって頂辺の穴を設ける。鉢の左右に二対(計四個)の響穴(ひびきのあな)をあけ、鵐目(しとどめ)をはめる。このすぐ上に各一点ずつの星を打ち、これを四点鋲(してんのびょう)と称した。また、後正中(うしろしょうちゅう)には笠印付鐶(かさじるしつけのかん)を打つ。
頭部の形に合わせて半球状に作ったもので、主に鉄を素材とし、時には革を用いた。
当世具足
(とうせいぐそく)
「当世」は現代風の意味で、室町末期に、今までの大鎧・胴丸などに対して新形式甲冑の固称とした。「具足」とは甲冑に限られた用語ではなく、皆具(かいぐ)している道具の意味で、甲冑では兜・面具・胴・袖・籠手・臑当・佩楯の七具を室町中期以降「よろい」にかえて呼ぶようになった。構造は胴丸の形式をついでおり、乱戦の中で自己の武勇を示すためにいろいろな形式の鎧や兜が工夫された。
本小札具足
(ほんこざねぐそく)
旧制の材質で、本小札で構成したもの。二枚胴具足に多い。
伊予札具足
(いよざねぐそく)
佩楯の伊予札のように、綴じたものと毛引威にしたものとある。
本縫延胴具足
(ほんぬいのべどうぐそく)
幅のある碁石頭(ごいしがしら)、または矢筈頭(やはずがしら)の伊予札の下縫を縫延とし、これを毛引威(けびきおどし)・素懸威(すがけおどし)・菱綴(ひしどじ)・畦目綴(うなめとじ)などにしたものをいう。
縫延胴具足
(ぬいのべどうぐそく)
一枚の板札の上部を碁石頭に刻み、下地漆(したじうるし)で本縫延のように重ね目盛り上げして縫延にし、本縫延のように見せたものをいう。
切付小札胴具足
(きりつけこざねどうぐそく)
本小札に見えるように、板物の上部を小札頭のように切りつけ、下地漆で盛上札としたもので、素懸威と毛引威があり、二枚胴に多い。
最上胴具足
(もがみどうぐそく)
板物四カ所蝶番(ちょうつがい)の五枚胴で、素懸威と毛引威とがある。
桶側胴具足
(おけがわどうぐそく)
板物を威さずに、鋲でからくり留めしたもので、横矧(よこはぎ)と縦矧の二種があり、またからくり留めを丸鋲からくりと、かわなどで菱綴または畦目綴したものもある。また桶側胴の表面を段差なく平滑に漆で塗り潰して、仏胴に見せたものもある。
南蛮胴具足
(なんばんどうぐそく)
西洋甲を利用したもので、胸中央に縞立ある二枚胴で、当時珍重され需要の多かったため西洋甲をまねた和製南蛮胴もつくられた。
仏胴具足
(ほとけどうぐそく)
桶側胴や南蛮胴の手法の影響を日本的に表現したのが、仏胴である。仏胴とは仏像の胸に継ぎ目が見えないように、胴が平滑に継ぎ目のない形によって名付けられたもので、南蛮胴のように前後を各一枚の鉄板で打つ出した二枚胴を本式とするが、桶側胴や矧ぎ合わせ構成の表面を下地漆で平滑に盛り塗ったものや、かわ張りなどで平滑にしたものもある。
仁王胴具足
(におうどうぐそく)
「肋骨胴(あばらどう)」ともいう。南蠻胴と同じに前後二枚の鉄で作るが、表面を肋骨や肉置きの有様を打ち出して肉体に見せたもので、ローマ時代の胸甲に似ている。その打ち出しの表現により、肋骨胴・餓鬼腹胴(がきばらどう)・布袋胴(ほていどう)・弥陀胴(みだどう)があり、なお半身衣類を脱いだ形に小札威をつけた片肌脱胴(かたはだぬぎどう)というものもある。
畳胴具足
(たたみどうぐそく)
亀甲金(きっこうがね)や骨牌金(かるたがね)を鎖で連鎖したもので、胴丸・腹巻・腹当にもおこなわれていた。鎖の部分が柔軟に動き、折り畳んで小体積となるので持ち運びにも便利で、また量産もしやすいので、下級武者への御貸具足(おかしぐそく)にも利用され、また上級者も臨時武装用として用いられた。それの種類に馬鎧札(うまよろいざね)を麻布地に綴じつけて構成した畳具足もあるが、これは煉革札(ねりかわざね)であるため、軽いので好まれた。
段替胴具足
(だんがえどうぐそく)
仏胴や桶側胴は、表面に変化がなく単調のため、立拳(たてあげ)か、長側(ながかわ)の下段、あるいは上下の手法を替えて、外見派手に見えるように作ったものもあり、これを「段替胴」と呼んでいる。 板物に小札、仏胴に威しの段、小札に伊予札などを好みによって、当世具足として表現できるあらゆる手法を交ぜたものである。 立挙を毛引または素懸威としたものを「胸取(むなとり)」といい、長側下段を毛引または素懸威としたものを「腰取(こしとり)」という。また、中間を仏胴・桶側胴の形式にして、上下を威したものを「胸腰取(むなこしとり)」という。 これらは胴の胸板から発手(ほって)まで裏張りして足掻留めを行ったものは、胴の装飾化のためであるが、威毛の部分が伸縮できるように足掻があるのは、着用した折りの実用の意味からである。 これらの手法の組み合わせによって、多くの種類を生じている。
雪の下胴具足
(ゆきのしたどうぐそく)
仙台の伊達家で好まれたので、「仙台胴(せんだいどう)」「奥州胴(おうしゅうどう)」ともいわれるが、原型は雪の下胴であり、雪の下と仙台胴では厳密にいうと多少の相違がある。縦矧桶側胴(たてはぎおけがわどう)の四カ所蝶番で、金具廻り肩上は古式の胴丸式で、胴の高さも胴丸に等しく、草摺も八間が多い。時には、背に逆板(さかいた)形式もある。仙台胴は、これらの改良型で高さは当世具足なみで、肩上は押付板に蝶番附の杏葉(ぎょうよう)があり、背に指物(さしもの)付の装置をもって、草摺は一般の当世具足より間数が多い。
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