甲冑の構成
江戸時代の甲冑−特色ある当世具足−

目次

1.当世具足の兜と胴
(1)兜の形式
(2)胴の形式
2.甲冑の構成
(1)札・威  
(2)金具廻り
(3)革所
   



1.当世具足の兜と胴

近世の甲冑を大別すると、まず、近世初期から江戸時代にかけてもっとも流行し、幕末まで継続した「当世具足(とうせいぐそく)」と、江戸中期頃から幕末まで行われた「復古調の甲冑」とがあります。ここでは、当世具足を対象に、甲冑の部位で、最も特色のある兜と胴について紹介します。

(1)兜
近世の兜は、中世以来の形式を踏襲したものと、斬新多様な造形になるものとが混在して用いられました。すなわち、室町末期に現れた小星兜(こぼしかぶと)や筋兜(すじかぶと)、頭形兜(ずなりかぶと)など中世以来の兜に改良を加えて新形式にしたもののほか、鉄打ち出しの形兜(なりかぶと)や張懸兜(はりかけかぶと)など、既成の兜とは全く異なる新興の兜が使用されました。また、室町後期に盛行した阿古陀形(あこだなり)形式の兜も当世風に形式を改めています。これらの当世具足に具して用いられた兜を総称して、当世兜と呼びます。兜は、鉢部・しころ部・立物(たてもの)部の部位に分かれます。
@小星兜(こぼしかぶと)

鉄板をはぎ合わせ、はぎ目を鋲で留めた形式です。この鋲(びょう)を星といい、大きいものを厳星(いがぼし)、小さいものを小星いい、室町時代には小星が流行しました。
A筋兜(すじかぶと)

星鋲を打ちつぶして、表面を平らにしたもので筋だけ見えるのでこの名があります。
B桃形兜(ももなりかぶと)

室町後期に伝わった西洋兜の形が桃に似ていたので、この名が付けられました。四片の鉄を打ち出して構成していています。
C烏帽子形兜(えぼしなりかぶと)
桃形兜は烏帽子の形に似ていたので、江戸時代この形で発展しました。
D兎形兜(うさぎなりかぶと)

桃形兜に脇立として、兎の耳をつけて変化を表現しました。
E頭形兜(ずなりかぶと)

変り兜の基本形で、室町末期から流行しました。日根野形・置手拭形も頭形の兜です。

F置手拭兜(おきてぬぐいかぶと)

手拭を畳んで頭にのせた形に似ているので名付けられた兜です。紀伊国(和歌山)雑賀の甲冑師(かっちゅうし)が作ったが江戸時代には他派の甲冑師も作りました。構成法が新機軸で堅牢であるので室町時代末期に好まれたものです。天辺二枚、側面二枚を基本とした鍛えの良い鉢で、切鉄細工や、眉(まゆ)打出しなど異色のものが多くみられます。
G日根野形兜(ひねのなりかぶと)

日根野織部正考案といわれるが、室町時代末期には流行しています。頭形兜の構成上の区分から「日根野兜」などといいます。五枚張りで、眉庇(まびさし)が頭上の板の上に重なり、しころが肩の線なりに刳られて後部が垂れ下がっています。当世しころの代表的形です。
H提灯兜(ちょうちんかぶと)

兜鉢をしころと同じく輪切りにしたものを素懸威(すがけおどし)にしたもので、畳兜ともいいます。

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(2)胴
@本小札胴(ほんござねどう)

本小札(小さな札板)を毛引威(けびきおどし)で構成したもので、胴丸から当世具足への過渡期(室町後期から安土・桃山)につくられたものが多くのこされています。
A縫延胴(ぬいのべどう)

伊予札を横縫(よこぬい)する方法で、鎌倉時代から行われています。表に薄い馬韋(うまがわ)をはり、木目こんで漆で固め、素懸威などで構成しています。
B最上胴(もがみどう)

山形県の最上地方で行われた形式で、小札板のかわりに鉄板を用いて素懸威や毛引威にしました。鉄板で着用しにくいので蝶番(ちょうつがい)で開くようにしています。
C南蛮胴(なんばんどう)

室町後期に輸入された西洋甲冑の兜や胴をもちいて、西洋風の甲冑が製作された。後に、この形式が桶側胴に影響し、仏胴を生みだした。
D桶側胴(おけがわどう)

鉄板を威さず、鉄で留めた胴が、桶に似ているので、名付けられました。堅固で製作も簡単なため、室町後期に流行しました。縦矧(たてはぎ)と横矧(よこはぎ)のものがあります。
E仏胴仙台(ほとけどうせんだい)

前胴、後胴、左脇胴、右脇胴二枚の五枚にわけた形式です。明珍(みょうちん)系の甲冑師が製作し関東で流行しました。伊達政宗が好み伊達藩一統のものでした。

F段替胴(だんがえどう)

幾つかの胴の形式を自由に組み合わせ、独自な胴の構成です。縫延胴の胸や腰を毛引威にしたのはその例です。段で替えてあるので名付けられました。
G畳胴(たたみどう)

骨牌金(かるたがね)・亀甲金(きっこうがね)などを鎖輪で連接して構成したものです。鎖部に運動性があって折畳めるので畳兜(提灯<ちょうちん>兜)が付属しています

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2.甲冑の構成

甲冑は、大きく札(さね)・威(おどし)、金具廻り、革所にわけることができます。

(1).札・威
札は甲冑を構成する基本要素かつ最も重要なもので、甲冑構成上の基本となります。素材は牛革や鉄を原則とし、その形状などにより本小札(ほんこざね)・伊予札(いよざね)・板札(いたざね)などの別があります。札にはその種類に応じた一定の小穴を穿ち(うがち)、横にからみ連ね、あるいは威毛を通します。(右下、右上写真黄色線囲み部分等)
札板を上下のつなぐことを威といいます。威に、絹糸の組紐(くみひも)、鹿の揉韋(もみがわ)を裁断した韋緒(かわお)、布帛(絹や布)の裂地の畳み紐などが用いられたため、威毛ともいいました。中世以降の甲冑は札と威が主体で構成されるため、甲冑の名称は、「○○糸威×××具足」などのように、もっぱら威毛の色と材質で表現されています。


(2)金具廻り
中世の甲冑を構成する、鉄札や兜の鉢を除く鉄板製の部分をいいます。最上段の札板に続く、胸板、栴壇板(せんだんのいた)や袖の冠板(かんむりいた)など、また大鎧(おおよろい)の障子板、鳩尾板(きゅうびのいた)、脇楯(わきだて)の壺板(つぼ)、兜の真向(眉庇とも)などがこれにあたります。金具廻りは、通常、表裏を絵韋(えがわ)と呼ぶ華麗な文様を施した染め韋で包み、鍍金(ときん)や鍍銀の覆輪(ふくりん)と呼ぶ金属の縁取りを施しています。(右上写真きみどり色線囲み部分等)
大多喜城本丸跡出土甲冑小札 小札使用部(栴檀板裏)

(3)革所

甲冑に使用されている革所には、兜{裏張(うらばり)・浮張(うけばり)、吹き返しの包み韋(ふきかえしのつつみがわ)}・胴{肩上(わたがみ)、弦走韋(つるばしりがわ)、蝙蝠付(こうもりづけ)、胴の裏包韋(うらづつみがわ)}・袖{矢摺韋(やずりのかわ)、籠手摺韋(こてずりのかわ)}・金具廻に貼る絵韋(えがわ)、また、用途によってこれを分類すれば、実用を主としたもの・実用と装飾を兼ねたもの・装飾を主としたものとなります。(右上写真赤線部分等)

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