アール・ヌーヴォーの店
 
2014年現在の様子
 

■ ビングとの交流

ビングという人は有名の骨董商にして且図案家に候。
同氏は日本の古画古器物類を非常に集めて欧州諸国へ其趣味を紹介したる一人なるは確かなる事實に有之候。
先日来二度許り同氏の家を訪ひ見物致候。店に多くの図按家と、あらゆる職人とを抱えて、金属彫刻、陶磁、ガラス、木彫、建築何でも自分の家で製造して、其の細工場が一場に集り居りて、家のまん中が陳列所になり、見本山の如く並べあり、其処に在りて自ら差図して製造致居候。
只自宅でやらぬものは織物ばかりのよしに有之候。
實に羨ましき生涯にして、面白く金もうけ出来て、愉快の事と感じ申候。

*浅井忠「パリ消息」『ホトトギス』第4巻第1号 1900 p374

 ビングの自分で創作した図案で工芸品を制作し、それを自分の店で売るというスタイルに浅井は感銘を受けました。

 夏頃、ビング(Siegfried Bing、美術商)を訪ねました。ビングは、アール・ヌーヴォーという言葉の発端となった美術工芸品販売店「アール・ヌーヴォーの店」の経営者です。浅井はビングの経営する「アール・ヌーヴォーの店」を訪問し、さらに博覧会場で合流して、展示中のビング商会の作品を通訳付きで見学しました。ビングは美術品の販売のみならず、博覧会企画の提案もしていました。当時ヨーロッパで人気のあったアール・ヌーヴォーの中心的人物との交流は、以後の浅井の活動に強い影響を残しました。ビングの「アール・ヌーヴォーの店」については、この年の『ホトトギス』10月号に次の書簡が掲載されました。