商家の行事


 商家で営まれる行事には、周辺の農村と同様のものと、商家独特のものがあります。そして、出身地や職種の違いにより、行事の行い方に違いが生まれてくるところに、町場の行事の特色があります。以下、佐原の事例をもとに、主なものを紹介します。

正月の行事

正月準備   正月の準備の餅つきは、28日か30日に各家でつきました。大店になると大勢の店員や出入りの職人みんなで2俵も3俵もついて、大変賑やかでした。門松は、出入りの仕事師の頭である鳶が材料をすべて用意して立ててくれました。佐原では、枝葉をつけたままの2mくらいの竹に松を一枝添えて輪飾をつけ、それを一対、薪の束などを台にして店の両側に立てる、という形が多かったようです。
 とくに年神様や幸木などを飾らずに、神棚に牛蒡締めを飾る程度の家が多いようですが、中には床の間に掛け軸を飾り、その前に大きなお供え餅をあげて、そこを「年神様」として、神棚の方にはしめ縄も飾らず、正月に雑煮もあげない、という店もあり、一様ではありません。また、店や神棚、荒神様、仏壇、蔵など各所にお供え餅が供えられますが、その大きさや飾る場所、飾り方なども家々によって多少の違いがあります。

正月   元旦は店を休みにします。朝の暗いうちから元朝参りに行き、ダルマなどを買ってきます。雑煮は味噌仕立て、醤油仕立て、入れる具も里芋と大根という家、糸昆布と鳥肉という家、糸昆布と里芋・大根という家など、千差万別というおもむきです。このほか、元日には出入りの職人が印半纏を着てあいさつに回る風習がありました。

初売り   2日は初売りで、呉服屋などでは安売りを行います。初売りに来る客には、手拭や風呂敷などの年始めを出しました。また、得意客には、七草くらいまでの間に、年始を持ってあいさつに回りました。

七草   七草には、佐原の商家ではほうれん草などの菜っ葉が入った雑煮を食べる、という例が多くあります。また、この日に門松やお供えを下し、門松は各家で燃やしました。

蔵ひらき   11日は蔵開きで、蔵のある商家では、この日初めて蔵を開き、蔵のお供えを下げて雑煮を作ったといいます。

1月15日   小豆粥を作ります。成り木餅を作って店先に飾る商家もありました。

藪入り   1月15日、16日は藪入りで、盆の15日、16日と年2回の休みの日です。住込みの奉公人は着物を一揃いもらい、小遣いをもらって実家に帰ることができました。

冬の行事

節分   店の入口や裏口など、出入口すべてに大豆の殻に刺した目刺(めざし)の頭と柊(ひいらぎ)を飾ります。夕方に豆まきをします。年男は、近在の神社や寺で豆まきを行いました。

 

 

 

 

初午   佐原では、町内ごとに稲荷様を祭っている例が多く、初午には稲荷の祭りが行われます。宵宮は子供たちが旗を作って商店をまわりお賽銭を集めたり、小屋を作り、そこで太鼓を叩いて歌を歌ったり、御馳走を食べたりと、楽しい祭りでした。初午当日は、大人が集まって一杯飲みました。

春の行事

彼岸   ぼた餅やちらし寿司などを作り、お墓参りに行きます。

節供   3月と5月の節供は、子供のいる家の家庭行事ですが、五月の節供には、軒に菖蒲を差したり、瓦屋根の場合は薪に菖蒲を縛り付けて屋根に上げたりしました。菖蒲湯に入る習慣もありました。

 

 

 

 

 

夏の行事

6月1日   店によっては、暖簾(のれん)を紺から白に変えます。

七夕   7月7日に井戸掃除を行った店も多いということです。鳶の職人が井戸掃除を行う場合もありました。ただし、8月16日に井戸掃除を行ったという家もあります。

   新盆の場合は、8月1日に近所の人や親せきが集まって盆棚を作ります。7日ころ墓掃除に行き、13日の朝、墓に行って灯ろうを立て、お膳を置いてきます。そして、13日の夕方は迎え火です。墓地で灯ろうに火をともし、お膳にはきゅうりとなすを刻んだものを載せてきます。そして提灯に火をともして小野川にかかる大橋の上まで来て、そこで線香を焚いて川に投げ入れるというのは、いかにも水郷佐原らしい迎え火のやり方です。送り火は、小野川の上で線香を焚き、川に投げ入れて拝むだけで済ませたようです。
 また、翌日の16日には、マコモの舟にお盆のあいだ仏様にあげたものをすべて乗せ、利根川まで流しに行きました。利根川の岸には、マコモの舟を流す人を乗せるための舟が待っていて、川の中ほどまで乗せて出てくれました。

秋の行事

月見   旧8月15日が十五夜で芋月見、旧9月13日が十三夜で栗月見といいます。片月見はいけないといって、それぞれにお団子やススキ、ハギ、野菜や芋などを飾ります。

えびす講   旧10月20日はえびす講です。呉服屋を中心に数日前から大売出しを行い、収穫を終えた近隣の農家からのお客さんも多く、賑わいました。

20日は、店を早じまいにします。えびす様を神棚からおろし、生きた鮒や鯉、その日の売上や帳面、算盤などを供えます。また、この日は従業員もみなでごちそうを食べ、お酒も無礼講で飲めました。えびす様のお祀りの仕方や、えびす講の献立は、家によってそれぞれでした。

その他の行事

おまつり   佐原では7月に本宿の八坂神社、9月には新宿の諏訪神社のお祭りがあり、それぞれ各町から山車が出て賑わいますが、町場では豪華な山車を引き廻す祭りが、夏か秋に行われることが多いです。財力のある商家が中心となって華やかに執り行いました。

集金   以前は、現金による販売とともに貸し売り(信用商い)も多かったため、1月と8月の年2回の藪入りの前に、集金に回りました。