細工の店「きよすみ」


 細工の店という名称は、細工関係の職種全般にわたって付けられたもので、細工の店が実際に存在していたわけではありません。細工の店は、販売中心の店ではなく、作業場を兼ねたものです 。


屋号  安房郡天津小湊町(現鴨川市)の清澄山を中心とする地域の地名に由来します。豊富な森林資源に恵まれ、細工物の生産地として知られているところから屋号としました。

建物の特徴  寄棟切妻瓦葺屋根、間口3間半、奥行き3間の2階建て町屋造り。側面は、板壁仕上げ。1階店内は板張りの床と土間部分になっており、作業場としての雰囲気を出しています。具体的なモデルとなった建物はありません。

店先の展示  暖簾(のれん)  実演体験中は、はずしてあることがあります。
        ザル類  軒に下げて、看板の代わりにしています。
        背負いカゴ  販売品として展示してあります。
        張り子もしくはカゴ類  招き猫や福助などの縁起物や首振り虎などのおもちゃの張り子、日用品として使うカゴやザル類を展示しています。


細工の店一口メモ

かご屋の商い  細工物といっても、竹細工をはじめとしてその範疇に入るものは、さまざまな職種があります。「細工の店」という名称は、細工関係の職種全般にわたって包括できるように考えて付けたもので、昔からこのような店が一般的に存在していたわけではありません。なかでも、日用品として最も身近で重要な役割を果たしてきたかご・ざるを作るかご屋を店先展示として取り上げ、雰囲気を実感できるようにしてあります。
 かご・ざるを商う店としては、荒物屋が昔からありました。いわば雑貨屋で、一緒に様々な日用品を扱っていて、細工の店という性格のものではありませんでした。かご屋は、職人の仕事場です。普段は、比較的よく売れるものを中心に製作し、できた製品はその場に並べて、仕事をしながら客を待ちます。また、売れた物は、順次製作して補充しました。店先にないものは、客と仕様や製作日数、値段を交渉し、注文製作となりました。

かご屋の生活  竹は、職人自らが切りに行く場合と、問屋から購入する場合とがありました。日本には、竹が600余種あるといわれますが、荒物用として用いるのは、マダケ、メダケ、モウソウチクなど5種類ほどで、伐採に適した時期は10月下旬から12月下旬までの2か月間です。伐採は、竹切り鋸や鉈を使って、元の方から切り、枝を落とします。3年物を中心に、5年物ぐらいまでをよく使います。1年物は、柔らかすぎてコシがないので、縁巻き程度にしか使えません。現在では、縁巻きに強靭な籐(熱帯地方に自生するヤシ科のつる性植物)を購入して用いることも多いようです。
 伐採した竹は、直射日光にあたると退色しやすく、また湿気や乾燥も嫌うので、板などで覆いをしておきます。ある程度製品がたまると、かついで行商して回ったり、仲買人などに卸す職人もありましたが、現在では需要が少ないので、注文による製作が主流になっています。
 職人の朝は早く、日の出とともに始まり、昼食後にしばらく昼寝をし、日没くらいまで仕事をします。急ぎの注文などがないかぎり、夜は早めに寝ました。一人前になるには、7~10年かかると言われています。
 かご屋の特色ある年中行事としては、1月2日の「仕事はじめ」や1月15日の「太子講」などが知られています。「仕事はじめ」は、仕事場もしくは座敷の神棚に、製品かそのミニチュアを供え、技芸上達・商売繁盛・家内安全を祈り、道具箱を出して道具をおろす真似事だけを行います。その後、食膳が出され、皆で共食をしました。「太子講」は、一般的に親方の家で行われる寄合で、床の間に聖徳太子の掛軸が飾られ、食膳・餅・お神酒を供え、技芸上達・商売繁盛を祈ります。その後、食膳が出され、皆で共食をしました。

製作工程  かごやざるを作るには、まず竹を水の中でよくみがき、必要な長さに鋸で切ります。次いで、鉈で縦にいくつかに割り、細長い棒状にします。これを細く、薄く裂いてひごを作りますが、指先の勘だけが頼りの仕事です。熟練者は、コンマ1ミリのひごの厚みの違いも、指先で感じると言われます。
 編み方は、2本のひごを直角に交差させるようにして編んでいく四つ目編みと、3本のひごを60度で交差させるようにして編んでいく六つ目編みが基本で、他にも網代編み、八つ目編みなど様々な編み方がありますが、すべてこれらの応用となります。
 基本的な製作工程は、
  1 底の部分を編む「底組み」
  2 端を折り曲げて立ち上げる「腰立ち」
  3 胴の部分を編む「胴編み」
  4 上部先端を折り曲げて止め、薄く剥いだ竹を螺旋状に巻いたり、口縁部の内側と外側に厚めに剥いだ竹を環状にかけ、籐で巻き締めて完成させる「縁仕上げ」
です。
 一般には「竹裂き三年、編み三年」と言われ、毎日練習しても、熟練するまでには6年ほどかかります。

かご職人の修業  技術の習得は、従弟制度といって、一般的には12~16歳で親方のもとに弟子入りをし、まず小僧として勝手仕事や掃除などの雑用から始まり、竹洗いや製品の配達、串削りなどの下働きをします。2年後くらいから竹裂きを中心に教わり、底編みから縁仕上げに至るまでの様々な技術を教わります。年期が明けるまでは、夏と冬に親方から浴衣などの衣類と月々わずかな小遣いをもらうだけの生活です。また盆と暮には、自分の家に帰ることが許され、親方から特別に小遣いが出ました。
 7年ほど修業して年期明けをすると、一人前として認められ、親方から羽織と道具一式が贈られます。これで独立して仕事ができるようになります。しかし、こうした制度は現在ではほとんど見ることができません。


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