第2章 今を生き抜く鯨たち

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 この章では現在の海で生きているクジラの体の仕組みや生態を紹介します。

 現在、世界には約90種のクジラが生息しています。すべての種が一生を水中で過ごすため、彼らの体の仕組みは水中生活に特化しています。たとえば、クジラの耳の骨は水中で音を聴きやすくするため、頭の骨から少し離れています。また、クジラは魚のような浮き袋がありません。骨がスカスカで脂をため込んでおり、それで浮力を得ることが出来ます。また、クジラは寝るのも水中なので、半分ずつ脳を休めながら寝るという性質をもっています。

 出産も水中で行われるため、クジラの赤ちゃんは逆子で生まれてきます。頭から生まれてくると出産の途中で海水を飲んでしまい、おぼれてしまうからだと言われています。出産シーンは動画コーナーでご覧いただけます。

 ヒゲクジラ類は、世界で約14種が知られています。一番小さなコセミクジ ラでも全長は6mになり、最大のシロナガスクジラでは30mに達することがあります。哺乳類では珍しく、メスがオスよりも大きくなります。夏は北極や南極近くの冷たい海で餌(えさ)を食べ、冬は赤道に近い暖かい海で餌を食べずに繁殖を行うなど、半年ごとに大規模な回遊を行う種が多いです。また、半年ごとに餌を食べる期間と食べない期間を繰り返すので、ヒゲクジラ類では耳垢を調べると年齢がわかります。餌を食べると脂が混じった明るい色の耳垢(みみあか)が、餌を食べないと脂が少ない暗い色の耳垢が交互に耳に溜まるために年齢がわかるのです。子供は生まれて1年以内で親離れし、150〜200 歳まで生きる種もいると言われています。

 ハクジラ類は、世界で約76種が知られています。ヒゲクジラ類のような大回遊は行いませんが、深さ3000m近くの深海まで潜水して餌を食べるものもいます。大きさは全長4m以下の小さな種がほとんどですが、マッコウクジラのオスは16mに達します。また、オスとメスで姿や大きさがちがう種が多いのも特徴で、たとえばイッカクではオスの左の牙が長くなります。ヒゲクジラとは異なり、ハクジラ類は群れをつくるものが多いです。群れの構成メンバーはさまざまで、一生を生まれた群れで過ごす性質を持つ種もいれば、成長すると生まれた群れを出ていく性質を持つ種もいます。寿命も種によって異なり、ハンドウイルカやスジイルカは40から50歳、最高齢の記録はツチクジラのオスで83歳です。

 クジラは海の生態系でさまざまな役割を果たしており、多くの生き物とかかわりをもっています。たとえば、クジラはオキアミや魚類、イカ類などを餌として利用する一方で、寄生虫には宿主(しゅくしゅ)として、ダルマザメには餌として利用されます。海底に沈んだクジラの死体から「食う食われる」の関係が始まる生態系もあり、死体も他の生き物に利用されています。シャチは他のクジラを食べることもあり、クジラ類がクジラ類を利用することもあります。また、人間もクジラと関わる生きものの一員です。クジラを食べる文化や水族館やホエールウォッチングなど、クジラと直接的にかかわることもあれば、人間の出したゴミがクジラに影響を与えるなど間接的なかかわりもあります。

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