雲南の地衣類Lichens of Yunnan, China
6.地衣食文化
 
(1)地衣類を食べること

 日本でイワタケが食べられていることは,世界の地衣類研究者の間ではよく知られていました.

 一方,雲南省では,地域によっては地衣類がかなり普通に食べられています.このことが世界に知られるようになったのは,21世紀になってからです.何種類かの地衣類は,地域によっては山菜の一つというような感覚で,かなり日常的に食べられるようです.また,飢饉のときに食べられるものもあるようです.

 2000年代には,省都,昆明でも幾つかの民族料理(特に南部地方の料理)のレストランでも地衣類料理が食べられるようになっていました.

 
雲南の地衣食

雲南では,地衣類は調理前に,石灰を溶いた水でにこぼし,一晩水に付けておくといいます.

酢,味噌,唐辛子,花椒などで味付けした冷菜として食べることが多いですが,炒めることもあります.

多くの種類が食べられますが,主なのは以下の2種類です.

・樹花: カラタチゴケ属 Ramalina

・老龍皮: カブトゴケ属 Lobaria

また,2007年の調査時に,食べられていることが発見された地衣類があります.

・樹髪: バンダイキノリ Sulcaria sulcata

さらに,2009年の調査時には,様々な地衣類を食用に採取した人たちに出会いました.

ここでは,この4点について紹介します.

 

1)樹花: カラタチゴケ

 カラタチゴケ属 Ramalina の様々な種が含まれます.つまり区別されていません.調理されたもの,あるいは調理前のものなどを見た限りでは,カラタチゴケ Ramalina conduplicans が最も多く,ヒロハカラタチゴケ Ramalina sinensis もかなり頻繁に混じっています.雲南の南部から南西部で食べられることが多いようです.

 冷菜がお薦めです.

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田んぼの周りの樹木.

2005年.

幹にはたくさんのカラタチゴケが付いていた.

 
樹花: 食材と料理

調査旅行時に,食堂(+厨房)で見た,調理前の樹花,調理された樹花を紹介します.

 

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2003年,剣川のホテル前の薬屋.

王さんが手に取った袋の左の袋が樹花.

薬として売られていた.

 

   
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2005年,元陽(山の麓)の食堂の厨房.水に浸けられている2つのバットの右はタニシ,左が樹花.

そのときの樹花の炒め物.

山の上の棚田.棚田の周りの木には,カラタチゴケ(樹花)が多い(その写真は上で示した).
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2006年,麗江近く(香格里拉から下ったとき)の金沙江のほとり.

 

山の上の棚田.棚田の周りの木には,カラタチゴケ(樹花)が多い(その写真は上で示した).
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2006年,大理の食堂の店先に並べられた食材.

手前中央が樹花.

もともとは薄黄緑色のきれいな地衣類だが,

下処理によって赤っぽくなる.

 
 
2)老龍皮: カブトゴケ

 カブトゴケ属 Lobaria の様々な種が含まれます.つまり区別されていません.雲南にはこの属の地衣類は非常に多様で,種数が多く同定は困難です.樹花(カラタチゴケ)が主に南部・南西部で食べられるのに対し,カブトゴケはもう少し標高の高い場所に分布するため,北西部で主に食べられるようです.

樹幹上に多量に着生していて利用しやすいですが,調理しても固めで食感はあまりよくありません.

 

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老君山.ヤナギの樹幹上を覆う,

カブトゴケ等.2003年.

麗江郊外,玉龍雪山の中腹.

幹を覆うカブトゴケ.2007年.

 
老龍皮: 食材と料理

調査旅行時に,食堂(+厨房)等で見た,調理前の老龍皮を紹介します.

 

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2003年,剣川のホテル前の薬屋.

王さんが手に取ったのが老龍皮.

薬として売られていた.

 

 
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2006年,大理.食堂前に並べられた

食材の中に・・・

手前のバットが老龍皮.網目模様ですぐわかる.

 

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2007年,大理.食堂の厨房に並べられた

食材の中に・・・

 

 

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昆明で購入

 
3)樹髪: バンダイキノリ

 バンダイキノリ属 Sulcaria は雲南に2種(日本にはバンダイキノリのみ)ありますが,このうちバンダイキノリSulcaria sulcataだけが食べられます.もう1種は長く垂れ下がり,しかも鮮やかな黄色をしているので,混同されることはありません.ただし,雲南のバンダイキノリには,この黄色い色素を含む品種(f. vulpinoides)が生育しますが,区別され,食用にされることはありません.黄色い色素はヴルピン酸とよばれる有毒物質で,長年の経験により区別されているのでしょう.

 雲南でこの地衣類が食べられることは従来知られていませんでしたが,2007年の調査で立ち寄った食堂で,食材として並べられているのを同行の王さんが見つけ,さっそく,日本地衣学会の学会誌「Lichenology」(ライケノロジー)誌上で報告しました.

 

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2007年.木の枝に多数の樹髪が.

 

そのアップ.

 
樹髪: 食材と料理

2007年10月17日,雲南北西部,金沙江近くの食堂で樹髪を見つけました.食堂のオーナーはチベット族で,もともとは山の上に住んでいたが,そこでは周りにたくさんあって,昔から食べていたということでした.

 

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食堂のショーケースに並べられた食材.

緑のバットの中身が・・・

樹髪
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別室には,多量の樹髪が

袋に詰められていた

その中身

王さんの,全て買い取りたいとの申し出に応え,計量するオーナー

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樹髪の冷菜

白い長いのはドクダミの根,短いのはネギ.黒っぽいのはキクラゲ.

唐辛子,花椒,酢などで味付けた冷菜.雲南で食べた地衣料理で一番おいしかった

 
樹髪: 有毒個体を見分けている

Sulcaria sulcata バンダイキノリは日本にもありますが,雲南省にはちょっと色の違う個体がかなりの頻度で出現します.鮮やかな黄色い色素を含む,個体で,品種「f. vulpinoides」として区別されています.有毒のヴルピン酸を含んでいるのですが,樹髪を食べるチベット族の人々は,しっかりと区別しているようで,上の写真の袋の中にはそのように黄色い個体は含まれていません.長い年月の間に,食べてはいけないことに気づいたのでしょう.

 

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通常の個体.

ヴルピン酸を含む,「f. vulpinoides」.

 
 
4)食材としての様々な地衣類

 2009年2月11日,雲南省西部の烏木竜.地元(少数民族)のガイドに案内され,近くの山で調査をそろそろ切り上げようという時でした.ガイドのいとこが,2人の少年(一人はガイドの子ども,一人はいとこの子ども)を連れて山を下りてきたのですが,その手に持っていたのが・・・

 

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右はガイド,左はそのいとこ.

袋の中身.

右は樹花(カラタチゴケRamalina),

左はアワビゴケ属Nephromopsis

右奥はツノマタゴケモドキ類 Everniastrum.

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さらにトゲシバリCladia aggregataも    

カラタチゴケ以外は,雲南で食用にされている記録はなかったもでした.

彼らは,時々食べたくなると,山に行って採ってくるのだそうです.日本での,山菜の一種のような感覚なのでしょう.

この地域では,地衣類を非常によく食べられてきたようです.人里近くに食べやすい地衣類がたくさん生えている環境があって初めて成立すると言えそうです.

 

参考になる文献:

● Wang, L.-S., Narui, T., Harada, H., Culberson, C. F. & Culberson, W. L. // 2001// Ethnic uses of lichens in Yunnan, China. // Bryologist 104: 345-349.

● Wang L.-S. & Harada H.// 2008// Ethnic uses of lichens in Yunnan (2). Sulcaria sulcata.// Lichenology 7(1): 31-34.

● 原田浩// 2008// 雲南地衣類調査行2007(その4).樹髪との出会い// 日本地衣学会ニュースレター(91): 331-334.