1. ハチとはなに?
2. ハチに似た昆虫
3. 膜翅目と呼ばれる訳は?
4. ハチの胸と腹部の関係
5. ハチの針とはなに?
6. 刺すハチ、刺さないハチ
7. ハチの毒とはなに?
8. ハチは一度刺したら死ぬ?
膜翅目の昆虫からアリを除いたものが、ハチです。簡単にその特徴をあげると、
(1) 頭部には一対の複眼と3個の単眼がある。しかし、退化したものもある。
(2) 触覚はふつう長くて、10節以上。
(3) 口は、かむ口で、さらに種類によってストロー状の構造をもつことがある。
(4) 4枚の薄い翅をもつ
(5) 前翅(まえばね)は後翅(こうし)よりも大きく、後翅の前縁にある小さな鉤を前翅の後ろに引っかけることによって、前翅と後翅が一体となって動く。
(6) メスは産卵管をもち、これが針に変化している場合もある。
(7) 卵から幼虫、蛹を経て成虫になる。
となりますが、多くの例外がありますので注意が必要です。
ちょっと見にはハチに見える昆虫がたくさんいます。一番多いのはアブ類でしょう。黒と黄色の縞模様をもち、花にも集まるので、混同している人も多いと思います。一番簡単な区別点は、ハチの翅は4枚なのに対して、アブ類の翅は2枚です。アブ類は短い触角をしています。
カミキリムシの中には、体つきや体の色のパターンがハチに似ているものがいます。ブーブーと羽音をさせ、せわしく飛び回るなど行動もハチに似ています。前翅が堅くなっているので、区別できます。
スカシバガ科の蛾がハチに似ています。特にハチマガイスカシバは、翅がハチのように透明になっていて、そっくりです。蛾は大顎(おおあご)がないこと、渦巻き状の口吻をもつことで区別できます。
膜翅とは膜状の翅の意味です。ハチの翅は薄い膜状をしています。それで膜翅目と呼ばれる訳です。
薄い膜だけでは弱いので、これを丈夫にするために傘の骨のような部分があり、これを翅脈と呼びます。この翅脈の入り方には、それぞれのグループごとに特徴があり、ハチの種類を見分ける際の重要な手がかりとなります。
ハチの科名一覧では、まずハチを広腰亜目(ひろこしあもく、こうようあもく)と細腰亜目(ほそこしあもく、さいようあもく)に分けています。広腰亜目のハチは胸部と腹部がほぼ同じ幅でつながっています。これに対して、細腰亜目のハチでは、腹部の付け根がくびれて、大変細くなっています。「ハチ腰」とは、女性のくびれた腰をさす言葉ですね。
さて、このくびれですが、実は胸部と腹部の間がくびれているのではないのです。腹部の大1節と2節の間がくびれているのです。腹部の第1節は胸部と融合してしまい、見かけ上胸部の一部となっています。外見上腹部の第1節と見えるのは実は腹部の第2節なのです。このような状態を正確に表す場合には、胸部と融合した腹部第1節を「前伸腹節」と呼び、腹部第2節以下を「膨腹部」と呼びます。胸部と前伸腹節を合わせたものは「中体」と呼びます。
しかし、一般的には中体を「胸部」と呼び、膨腹部を「腹部」と呼ぶことがほとんどです。図鑑などで「腹部は6節からなる」と書いてある場合には、見かけ上の腹部、正確には膨腹部が6節からなることを意味します。
結論からいうと、ハチの針は卵を産むための産卵管または、それが変化したものです。従って、オスにはありませんし、刺すこともありません(できません)。
広腰亜目と細腰亜目・有錐類(寄生バチ)のハチは、針を産卵管として使っています。細腰亜目・有剣類のハチ(カリバチ、ハナバチ)では、一部の例外を除き産卵管は卵を産むためには使われず、卵は産卵管の下にある別の穴から産まれます。ジガバチやドロバチ、ベッコウバチなどでは、産卵管は幼虫の餌である昆虫やクモを麻酔するための麻酔薬を注射する注射針となっています。カリバチとハナバチの中には、アシナガバチやスズメバチ、マルハナバチやミツバチのような社会性のハチがいます。これらの社会性のハチでは、幼虫のための餌をとるために針を使うことはなく、巣をおびやかすものを攻撃するするための武器となっています。これら社会性のハチが人間を攻撃することがあり、刺傷事故がおこることになるのです。
ハチの針は産卵管またはそれが変化したものです。針を産卵管として使っている広腰亜目、細腰亜目・有錐類のハチは、人の体にとまって刺すことはありません。人間に寄生するハチはいないのです。ただし、細腰亜目・有錐類のハチは素手でつかんだりすると針で刺そうとします。しかし、この場合でも、ほとんどのハチの産卵管は皮膚に刺さるほど丈夫ではないので、刺さることはありません。しかし、一部体の大きなハチではちくりと刺さることがあります。
カリバチ(ジガバチ、ドロバチ、ベッコウバチなど)、ハナバチ(コハナバチ、ハキリバチ、クマバチなど)は、ハチから人間を刺しに来ることはありませんが、やはり素手でつかんだりすると針で刺します。これらのハチの針は皮膚を突き刺すほど十分に丈夫です。カリバチの場合には、麻酔薬が注入されますので、かなりの痛みがあり、腫れることもあります(ハナバチの場合にも何らかの科学物質が注入されるようです)。
アシナガバチやスズメバチ、マルハナバチやミツバチのような社会性のハチは、針を巣をおびやかすものに対する武器としていますので、場合によってはハチの方から人間をおそって刺すことがあります。その意味でこれら社会性のハチが刺すハチであると言えます。偶然ではなく、「ハチの方から人間をおそって刺すことがある」ということから、私はこれらのハチだけを「刺すハチ」と考えています。
社会性の種は、日本では約2%、世界では約5%に過ぎません。
刺すハチ、すなわち社会性のハチの毒は、ハチの体の中で作られた化学物質で、針とつながった毒嚢という体内の袋に蓄えられられています。ハチの毒は、単一の物質ではなく、いろいろな作用をもつ化学物質がブレンドされたもので、研究者は「毒のカクテル」と呼んでいます。最近、ハチの毒の成分の分析が進み、一部のものについては化学的な構造がわかってきました。しかし、全体像は不明です。当然ハチの種類によって成分はことなります。
ハチ毒に関しては、単なる毒作用ではなく、アレルギー反応がでる体質の人がいます。特に激しい反応はアナファラキシーショックと呼ばれ、命にかかわる場合もありますので、注意が必要です。ある調査によれば、約10%の人がアレルギー体質でした。アレルギー体質かどうかを調べる方法がありますので、医療機関で心配な人は医療機関に相談してください。
「ハチの一刺し」という言葉があります。これは、ハチは1度さしたら死ぬということを意味しています。ほんとうにハチは1度刺したら死んでしまうのでしょうか?実は、1度刺したら死んでしまうのは、ミツバチ(世界に9種)だけなのです。しかも、人間などの柔軟性のある皮膚をもつ動物を刺した場合だけです。ミツバチの働きバチの針にはのこぎりの歯のような「逆棘」があり、皮膚を刺すと逆棘が引っかかって針が抜けなくなります。しかし、働きバチは無理に針を抜こうとします。すると針が抜けずに、腹部の末端がちぎれてしますのです。ハチは自由になりますが、腹部がちぎれてしまったので、その後10分から20分程度で死んでしまいます。一方、皮膚には針とともにちぎれた腹部の末端が残ります。毒を蓄めている毒嚢も針とつながったまま残っています。この状態で毒嚢は、収縮と弛緩を繰り返して、毒を針に送り続けます。この作用により、相手に対して毒をたっぷりと注入することができるのです。
針に逆棘があるのは、ミツバチだけです。したがって、他のハチは、一度さしても簡単に針を抜くことができますので、腹部がちぎれることもなく、死ぬこともありません。また、何度でも刺すことができます。