里山の景観保存は里山の生活を守ること



石田三示さん

(小川)

 ただいまから"里山の景観保全は里山の生活を守ること"というテーマで、大山千枚田保存会の代表でいらっしゃる石田さんのご講演をお願いします。

(石田)

 昨年NPO法人になったのですが、"里山の景観保存は里山の生活を守ること"というレジュメを作りました。そうした話に行き着くように、お話をすすめたいと思っています。
 鴨川というと、海のイメージが強いと思いますが、そうでない部分もあって棚田があります。きれいな風景だけれど、そうでないこともあることはのちほどお話します。
先ほどの熱田さんの話、いつもすごいなあと思って聞いているんですが、30年間続けられたというのは大変なことで、始められた頃はほんとに大変な苦労をされたと思います。

 私の話は、気楽にお付き合いいただきたいと思っています。皆さん、頭の上に手をあげて、時計回りにゆっくり回してみてください。水平に、時計回りに。だんだん下げてください。目の位置まで下げてください。水平に時計回りにです。ゆっくり、胸の位置まで下げて、ゆっくり。まだ時計回りですか?反対回りになりましたね。

 同じ回転を上から見るのと、下から見るのとでは、まったく違う。立場が変ると同じ現象が違って見えることを知って欲しい。
皆さん棚田を見るときはきれいな所とおっしゃるが、農村の現場というのはちょっと違います。都会からきた人は、素晴らしい景色、ぜひ守らなくっちゃとおっしゃる。立場を変えてみる。景観を守るためには、何が必要なのかを考えて頂きたいと思っています。

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 都会との交流の中で、千枚田の保全活動をやっています。これはオーナーさんが田植えをしている写真です。真ん中の、黒い帽子をかぶっている人、いかにも都会の女性という感じですよね。

 これが日本棚田百選の大山千枚田です。ここは農免写真道路が通っていまして、この下に小川が流れている。その範囲を大山千枚田といっています。375枚、3.2ha、この向かい側に写真をとるいいスポットがあって、そこからとった写真です。
千葉で一番高い山、愛宕山をご存知でしょうか? 408mですが、そのふもとに広がる棚田群と説明しています。棚田の写真のスポットとしても、5本の指に入ると聞いています。棚田の中でも景観的にも素晴らしいといわれ千葉の名所指定も頂いています。観光資源とされていますが、どうも理解されないようです。農村、つまり生産現場としての場所だということを、もっと理解していただきたいと思っています。

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 これが棚田の上に位置する棚田クラブという施設です。農村構造改善事業で作っていただきました。国が半分、市が半分の予算です。保存会の事務所でもありますが、オーナーさんたちが、作業が終わってからゆっくり休んでいただく所です。オーナーさんが居らっしゃらない時は一般に開放していますので、半日ゆっくり休んでよかったという方もいらっしゃいます。
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 左側にカエルのマークがあります。私たちは会報を出していまして、アンゴ通信といっています。この地方の方言で、カエルのことをアンゴといってマスコットにしています。ここに、藤づるを山から取ってきて飾ったりしています。棚田クラブの看板もそうです。


 これが棚田の冬の写真で、水がたまって凍っています。この写真もスイセンが咲いていますから、やはり冬です。
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 冬からずっと水がたまっていまして、卵が見えますがわかりますか? トウキョウサンショウウオです。これといっしょにニホンアカガエルが生息しています。私どもは、これが絶滅危惧種などということは全然知りませんでした。歩くのに邪魔になるくらいたくさんいます。
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 水をはり、産卵場所があるからサンショウウオやニホンアカガエル、こうした動物がいるわけです。まだまだ守られている環境があるということです。冬に田んぼに水を張るということは、食物連鎖の上からも大きな意味を持っていると思います。道路沿いには、一部セイヨウタンポポが咲いていますが、田んぼの畦の方には、カントウタンポポが生えています。

 私どもの活動を紹介する上で重要なのは、オーナー写真制度だと思います。これは鴨川市が介在するもので125口あります。その他に今年度から鴨川市農業特区ということで、新たに4集落でオーナー制度を始めており、130口です。それと千葉県の安房自然学校特区という、法人が開設できる中でやっているのが80口あります。要するに3種類の市民農園があるわけです。
 写真の右に居るのが保存会の者でインストラクター。もう5年になるので、自分でできる人もいますが、こうした人についていてもらっています。
今年はいわゆる手植え用の苗を苗代から作って植えました。自然学校特区は、通称トラストといっていますが、オーナー制度と違い、マイ田んぼという感覚はなくて、すべて共同作業で行なっています。

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 これは3つ目の、一口3万円で参加している田んぼです。それぞれに、いい点と悪い点があります。

 左側の人がインストラクターで、今年から赤い帽子写真をかぶってもらっています。また、大豆畑トラストというのもやっています。今晩が交流会で明日が種まきです。もともとは田んぼでしたが、放棄されて20年ぐらいたつ畑で、幹が10cmもある木も生えていました。最初は生協の人にも手伝ってもらいました。一口4000円で参加していただき、大豆で受けとってもよし、お味噌にしても、という方法をとっています。いろんな受け取り方を考えています。

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 これは、サミットの時のテーマで"保全と共生"、都市との共生という意味です。田んぼに紫米で稲文字を描きました。これは道路から見た写真です。

 今まで、棚田サミッ写真トは基調報告やシンポジウム、分科会などで2日間でしたが、今回は3日目に現場でやりました。サンディーさんという有名な歌手であり、ダンサーでもある人です。彼女の関係者がオーナーさんにいまして、ぜひフラダンスをという話でした。
 しかし、多分私が一番若くて、他はみんなおばあちゃん、おじいちゃんです。もう一喝で反対でした。私たちがイメージしているのは、海辺での観光フラしかありませんでした。その方も一生懸命話してくれましたが、タロー芋の収穫に感謝する段々畑での古典的な踊りだそうで、それなら違和感がないかもしれない。日本のお神楽とぶつけたら面白いかもしれないというので実現しました。
彼女らは、ステージが終わってからも湾曲した畦で踊っていただき、壮観でした。大変好評でした。まず、最初からダメではなく、できる方法を考えていくことが必要だろうと思いました。
 オーナー制度といっしょに農業体験もやっています。
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 これだけの田んぼを大人数でやるのですから、30分、1時間で終わってしまう。農業体験は本格的なものではありませんが、その入り口としてやって受けています。農家の人は自分でやっていますから、するのは簡単なのですが、それを教えられるかというと難しい。
 たとえば稲の刈り方、初めて鎌を使う。刈り取って藁でゆわえるのは結構教えるのが難しい。

 これは食農体験、大豆畑トラストの大豆を使っての豆腐づくりをやってるところです。
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学校の修学旅行の体験学習などにもやって結構受けています。
お味噌作り、大豆畑トラストの会員さんが自分たちでまいて収穫し、仕込む。安心感が非常に大きい。食に近い体験です。

大山千枚田の取り組み 位置
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 千枚田の位置なのですが、鴨川市の西のはずれ、ちょうど内房と外房の境のあたり、みなさん、海岸を通っても観光ではあまり入ってこない所です。10年前は、皆さんとても素敵な場所だとは思っていただけなかった所です。東京から2時間弱、アクアラインができたことも大きかったかもしれません。
棚田は100選の認定を頂きました。梼原で第1回の全国の棚田サミットがありまして、この時から棚田に吹く風が変ったといわれています。食について、環境について、脚光を浴びてきた。農林水産省の考えでもお米を作られている環境が保たれていないとダメ、農地としての役割がなければはずすということです。


大山千枚田の特徴

 これは、375枚の田んぼ、子どもたちは千枚田とい写真う名前なのに、へ〜、とよくいわれますが、いっぱいあるところという意味です。
 私どもの特徴は、天水田、頭の上にでっかい用水路がある。雨水というのは、必要な時に必要なだけの量を落としてくれないという難点はあるのですけれど。
 ここは粘土質の強い土です。だから粘土細工のお椀を作って、そこに水をためた状態をイメージすると分かりやすいと思います。漏水の少ない土地で米づくりをしているわけです。

 昨年でしたか、南房総は雨が少なくて、出穂前に田んぼがひび割れてしまったことがありました。下の川へ行っても、流れがないほどの旱魃でした。
強粘土質はおいしいお米が作れる、食味がいいといわれていますが、このときは困りました。お年寄りもこんなことは初めてだといっていました。こんなこともあります。
 鴨川市は早場米地帯、4月末から5月に田植えをして、8月中下旬に刈ってしまうという所です。田植え前は、少し水が少ない時期がありますけれど、植えてしまえば間もなく梅雨が始まる。梅雨が終わればかんかん照り、もうあまり水を必要としなくなっています。
 九州からきた人が、天水田なんて信じられない、ウチのあたりは3日田んぼに水を入れないと、田んぼが畑になってしまうといっていました。
日本のお米100選の中で、多古米とともにおいしいお米といわれています。歴史的には、江戸のお米屋さんがお米の品質を上中下の上の上から下の下までと9段階できめて上の上で取引されたという記録がありますが、こうしたお米を買いあさっていく場所でもありました。

地域の現状

 よく、農村の過疎、後継者不足が問題になります。過写真疎だと行政にお金が入らない。農協にも生産物があがってこない。農村は過疎で疲弊しているといわれていますが、特に疲れているわけではないんです。過疎を、全部悪いこととネガティブに捕らえてしまうと何もできません。
 セイタカアワダチソウと、じいちゃんばあちゃんしか居ない所で何ができるかから発想したのがオーナー制度です。ちゃんと営農活動をしていれば、都会の人が来てくれても農地を貸したりできない。来年はお米を作らないから、貸してもいいという条件があった。そして、もう一つは、スローライフや循環型の生活をしていた世代が健在であった。昔の生活を教えられる人がいるということはありがたい。そこへ都会の人が来てくれて、まちが元気になればいい。ポジティブからの発想、これが立ち上げの動機です。

保存会設立と現在までの経過

これは設立からの一覧表です。

 平成7年7月、大山地区より取組の要請、それまで写真行政からの提案がほとんどだった中で、これは民間主導での申請でした。
行政主導だと、会議資料があって、誰かが30分ぐらい説明し、2〜3人が質問して住民の合意が得られたことになる。これがほとんどのパターンです。民間主導だったので、立ち上がるまでは夜遅くまで、会議会議の連続でした。それを積み重ねました。
 ある時、11時ぐらいまでになった時、会員さんが怒り出した。"こんな遅くまでやる会議はしらん"というわけです。こうした人は行政の会議しか知りませんから、1時間半ぐらいで終わると思っていたんでしょう。自分たちの提案をするのは時間がかかる。それをしなければいけないと思います。結論が出なければ、また次の日にやればいい。
 会議というもの、なかなか全員が発言する会議なんてありません。3分の1ぐらいの人が発言すればいい方で、後の人は黙っている。聞いても答えない人が居る。でも、そこに居ることに意味があるんで、そうした積み重ねが大事だと思っています。

大山千枚田保存会会員の構成

 私たちの組織の中で、会員の構成が大きな意味があ写真り、特徴だと思っています。1号会員、これは地権者です。それに2号会員は市内の会員で、両方で地元の会員の合計が150名、それに都市住民、市外会員の3号会員が300名、地元の倍の都会の会員さんが大きな力になっています。
 棚田が話題になってから、保全組織を作っているところは数え切れないぐらいあります。行政が地主さんに声をかけて、作ったところが多分大半です。行政が事務を担当し、農家のじいちゃんばあちゃんを巻き込んでやっている。地域まで入っているのが次のパターン。そして、私どものように、都市住民までを含めているのが第3のパターンです。
私は行政が経済的にも成り立ち難くなっている。そして、地域には力がなくなっているから過疎が進んでいく。だったらどうしたらいい。そこで都市住民とのネットワークに求めたわけです。
 私たちは東京に向かって発信しました。東京に一番近い棚田を売り出した。開けてみたら千葉県民が60%だった。千葉都民という言葉がありますが、足元を見る必要があると感じたしだいです。

大山千枚田保存会の組織

 次に組織です。役員会の下に委員会を3つ、協議会を2写真つ持っています。企画委員会、景観委員会―これは千枚田と周辺までの景観設計をどう考えて広げていくかも視野に入れています。広報委員会、これは会報の発行など。自前で作っています。PTA会報のようなものですが、自分たちで作り伝えていくことの大切さ、あったかみを大事にしたいと思います。

組織運営の特徴

 ホームページは、会員の中に東京からこっちへ越してき写真て、コンピューターに詳しい人がいました。彼が立ち上げてくれました。じーちゃんばあちゃんたちは対応できません。
 協議会は2つあります。地権者協議会、これは地権者との調整。そして、支援者協議会、一番大事なところで、インストラクターです。男性60人。女性が40人います。オーナーさんに指導する、食事提供もやっています。自分たちの食文化を高めるためにもかかわっていきたいと思っています。

 地域での合意形成、とにかく会議ができること。みんなが賛成でなくとも、同じレベルまで意識を高めていきたい。
 都市住民の参加が地域の活性化に必要です。自分たちにない知恵を都市住民の知恵にお願いする。大山千枚田のビラを10000枚、澁谷で撒いたってほとんど捨てられてしまうでしょう。しかし、うちのの会員が自分のネットワークで知っている人に渡せば、効果はまるっきり違うでしょう。そういった、都会の人たちのネットワークが必要です。
 地域おこし、農家の人が農産物を作ることは仕事だからできる。でも、それを市場へ持っていった時、ちょっと出来が悪い、売れない、じゃー加工しようか、これもまあまあできる。だが、それをどう売ろうかという時に、対応できなくなる。つかえてしまう。
 そうしたスキルを持っているのが都会の人です。そうした人たちといっしょにやっていくことが必要です。
 地域の中で、みんな頑張ってきた。地域の中で完結するのが一番だけど、そうじゃない方法も必要で、インターネットの活用などもその例でしょう。
行政から補助金を貰うと、首輪をつけられてしまうマイナスもあるかもしれない。自立が難しい団体ではありますが、なんとかやっていきたいと思っています。

今後の課題

 お客様としてではない交流を大切にしたい。オーナーさ写真んが都会へ帰った時、自分の活動としてどうとらえていけるかが大きい。お客様ではない感覚を持ち続けていただきたい。
 今日は帰って、また交流会ですが、これがこわいんです。"会長、こういうことしませんか"と提案すると、その人が企画担当になってしまうんですから。これで苦労している人も今日ここに見えているのですけれど。
 たこ作りの提案をした人がいます。今まであまり発言しなかった人なのですが、たまたま草刈していて、一休みした時に話になりました。アメリカのロッキーへ行ってたこを揚げたというんです。すごいですね。自分で開発したたこで、新聞紙とタケのひごで作った。そういって車の所から持ってこられた。それがとてもよく揚がるんです。そのときにひらめきました。いいですね、やりましょうということになったんです。
 私たちが持っているものは何もないんです。棚田の風景と、そこに吹いている風だけです。そこへたこを作る人がいてくれた。そして、たまたま私たちのメンバーに中に、気象の専門家がいました。たこといえば風、風の話をしてもらって、"棚田の風と遊ぼう"の企画がまとまりました。こんなふうに新しい企画が生まれてきます。

耕作放棄の話

 都会の近くでは、耕作を放棄された畑が次々と宅地化されてしまう。いまさら、住宅を壊して農地を復元していくことなどはありえないでしょう。だから、今ある農地をなるべく守っていきたいと思っています。それをする活動のひとつとして、今の棚田があると位置付けています。
 今すぐに出来ることは何か? まず、じいちゃんばあちゃんが元気になる。若い嫁さんがそれにかかわっていく。それじゃーと、おやじさんもとなる。社会はそういっぺんに変らないけれど、変らないと困ります。
 視察にこられる方がよく言われることは、千枚田にかかわっていう人の年齢が平均65歳がなのを心配される。あと5年たつとどうなるのかといわれる。でも、私は心配していません。
 皆さんの近くの学校でも、小学1年生が入学してくるでしょう。ここへは、定年1年生が毎年入ってくるんです。定年1年生はバリバリですよね。今までは、自分の時間を仕事に提供して対価を貰う。そういった生活が60歳で終わった時、次の人生をどう考えるか? その時、農とか里山とかを考える人が多いと実感しています。そういった人たちが大勢集ってくる状況にあれば、保存会がどうにかなってしまうことは絶対にないと思っています。

 定年帰農という言葉があります。それが仕事ということではなく、定年後に農に近いところで生きていく。都会にいても、市民農園的な形なりで、農的な暮らしをしていくことは十分考えられると思います。農を考えながら生きていく暮らしです。
旧ソビエトが崩壊した時、ダーチャという市民農園があったのですが、ここでのジャガイモ生産が旧ソビエトの60%あったといわれます。ちょっと数字ははっきりしませんが、それだけの自給があったために大きなダメージがなかったということです。
 そこまでいかなくても、60歳以上の人たちには、そういった役割があると思います。私はいま、52歳なのですが、結婚も早く、子どもが早くできたので、子どもが20歳になった時、引導を渡しました。他の人の場合は、おとうさん、ぼくは大学に行きますとなって、こうは行きにくいかもしれませんが。
 定年後の人たちは、退職金と年金を頼りに田舎住まいをしていただけば、地域は変るなと思っています。あいている土地で新しいライフスタイルを作っていく。60歳という年齢は、業としての農もまだまだやっていける力がありますし、行政も力を貸してくれる。私どももそうした窓口を作りつつあります。

 それから、最初のスライドで自然体験について話をしましたが、その延長で自然学校を進めたいと考えています。いくつかの場面で、不思議な光景に出会いました。お母さんは、子どもに自然体験をさせたいと思っている。しなさい、しなさいといいながら、自分ではそれをしない。自分は田んぼに入らない。そうした体験が欠落しているんですね。
 いま、農業体験を観光と結び付けようということで、県も動いていますが、おかしなこともあります。
 イチゴ狩りがなんで農業体験なのか不思議です。あれは、収穫して箱づめして手間をかけるのならば、お客を連れてきて、食わせてしまおうということのようです。何を教えるか、何を伝えたいのか、その目的をはっきりさせないと、自然体験も意味ないと思っています。

 今日おくばりしたレジュメと違ったところでお話したと思うのですが、足りない所を補足していきたいと思っています。
 天水のことを少し話しましたが、日本の気候って、すごいと思います。よく木を切って、砂漠化してしまい、何にもなくなったところが紹介されますが、日本ではそんな風景にはなりません。棚田周辺は景観の維持ということもあって、年に5回ぐらい草を刈っています。あれだけ草が茂るということは、日本の気候のすごさだと思っています。

 参加した大学生の中に、アトピーですごい子がいました。田舎の家は農家で、高校の時まで家で作ったものを食べていて、何ともなかった。東京へ出てきて、2年でアトピーになって、お水が出るようなひどい状態になった。どうしてなったのかの話になって、やはり食生活でしょう。毎日コンビニで買ったものを食べていました。
 子どもたちの話を聞くと、朝ごはんを食べてきたというのが半分強です。外国産のコムギなどが全部悪いわけではないでしょうが、国産、地場産のものをやはり大事にしたいと思っています。そういう考えのできるような、食農教育が大事なんでしょう。
 このあいだ、大学生と一晩かけて17キロほど歩きました。いろんなことを考えました。もし、自分の食料を確保するために歩き回るとしたら、その範囲はどのくらいだろう。昔だったら、自分が摂取できるのは、足が地に付いたところでしょう。そういったことも含めて、食の安全を考えていきたいと思います。
 それに加えて、素晴らしい、美しい環境。千枚田を見て、すばらしいですね、これを守らなければいけないという、農村の原風景だといわれる。でも、ここはお米を作る生産の場なんです。
 たとえば、名所指定されている所で、テーマパークもある。市と農協の職員が田植えをしている。そうではなくて、農地の保全としてやっていかなければ意味がありません。

 このあいだ、東京へ行った時、何枚かの写真を持っていきました。林の中に竹が入り込んでいる。まだ農村には、竹を使っていく技術が残っています。おじいちゃん、おばあちゃんが作ったものが500円だとする、そこへ中国産のものが100円で入ってきたら、皆さんどうしますか? 誰だって100円のを買うでしょう。こうした状況の中では、里山の景観を守っていくことは出来ません。差額の400円を出すことによって、昔の景観を保っていけるかを自覚しない限り、景観を守ることは無理だろうと思います。
 もう一つ、帰農塾というのをやっています。都会の人たちに、どういった方法で農的な暮らしができるか? そして、自分たちの居場所を作って欲しいということです。地域にはコミュニティーがある。そこにどんな人に来て欲しいか、この集落なら行って見たい、その集落でこんなことができるという人が来ればいい。集落に元気な都会の人がひとりかふたり入っていけば、その集落が、地域が元気になります。
 健康な森ってどんなイメージを持ちますか? 森の中の環境、若木がいっぱいで幼木もある。成木や老木もある。倒れた木もある。北大の先生の話のオチは、人間社会と同じです。都会が若者だけだとしたらおかしい。田舎が老人ばっかりというのは健康ではありません。
 過疎は、人間や生き物が生きていくのに問題はありません。しかし、過密には健康の問題が起こってくる。過疎の田舎と、過密の都会と一緒に出来ればいい。そんなことを提案できるのが、里山なのかなという気がしています。



小川 ありがとうございました。ご質問がありましたらどうぞ。

市川から来たものです。休耕田を使って、手づくりの自然、小学生とその家族で、田んぼで環境教育をやっています。都市住民を引き込んだキッカケについてお聞きします。
自分たちの財産のありがたみは自分たちに判らない。どこかへ行って話をすると、"石田さんのところは千枚田があっていいですね"といわれる。都会の人にとっては財産かもしれない。しかし、田舎の人にとっては、生産性の悪い諸悪の根源なんです。生産効率が悪い。まだ、こんな所でお米を作っているということです。それが見方を変えれば、財産になる。地域の人に見えないことを教えてくれるのが都会の人"風の人"っていうんですね。都会の人の話をしっかり聞く。大事なことを教えてくれます。
澁谷でビラを配って反応がなかったという話がありましたが、石田さんや仲間の人たちの個人的なつながりも大きかったのではないかと思いますが……。
景観の素晴らしさに惹かれる人が多いと思います。でも、最後はそこに暮らす人たちの魅力でしょう。そこから交流が広がっていく。都会でも田舎でも、同じだと思います。
松戸から来た大学生です。竹林や雑木林の草刈、景観のための整備の負担などについてお話しを伺えればと思います。農家の人にとっての経済的メリット、オーナー制度によるメリットはあるのでしょうか?
そのお話しませんでしたね。オーナー制度のお金は、100平方メートル3万円が一口です。そのうち、65パーセントが地主さんへ、いろんな形で行きます。そのお金は、たぶん、お米を作っている以上に支払われている。機械などは使いませんので、普通にお米を作るよりも、倍ぐらいの所得になると思います。私どもの管理の負担は、その残金の中で、インストラクターさんや草刈の費用に当てていますが、基本的には足りません。ですから、いろんな事業を進めています。
 じゃあなんで赤字になることをしているかというと、地域おこしということが大前提です。そこへの最終到達点として、半定住、定住がある。その入口・窓口としての活動があります。そこで交流が行われるためには、来ていただかなければならない。それにある程度の経費がかかるのは仕方ない。オーナー制度自体は赤字なのです。
作業負担はどうなんでしょうか?
地元負担ですが、草刈については、時給1000円を支払っています。この金額がどうなのか、よく分かりませんが、参加されるのは、65歳前後、あるいはそれ以上の年齢の人です。先ほどの熱田さんの話では、500円といっていましたから、それに比べれば、まあまあということでしょうか。