３月にしては暖かい夜の森に濃厚な匂いがたちこめていた。死んだ動物を思わせる匂い。悪臭の部類である。ヒサカキの花が発する匂いだ。昼間よりも夜の方が強いように感じる。ヒサカキはツバキの仲間だが、その花は小さく直径５ミリほど。うっすらと緑がかったクリーム色をした多数の花が枝の下面に密集して咲く。視覚より嗅覚に訴えるこの花は、夜に活動するハエなどの昆虫を呼んでいるに違いない。そう思って訪花昆虫を探したのだが、この夜は何も見つからなかった。少し時期が早いのだろうか。
（尾崎煙雄）
ヒサカキ Eurya japonica（ツバキ科）