No.1301 2014/10/24(金)

 ヌルデの虫こぶ


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 ヌルデの葉にできたこぶ(写真1)。写真の中央に写ったいびつな形の実のようなものがそれだ。これは実ではなく昆虫の寄生によってできた「虫こぶ」で、ヌルデノミミフシという。ひとつ採ってみた(写真2)。長さ7cmほど。写真のものは小さな洋梨のような形をしているが、虫こぶの形は不定形で、もっといびつなものも多い。割ってみると、内部は中空になっている(写真3)。「皮」の厚さは2ミリほど。内側は黒っぽいゴマ粒のようなもので覆われている。この「ゴマ粒」のひとつひとつがヌルデシロアブラムシという昆虫である。体長は2〜3mm。拡大してみると、翅のある成虫と翅のない幼虫がいることがわかる(写真4)。この幼虫もやがて翅を持つ成虫になる。

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写真1
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写真2
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写真3
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写真4
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 ヌルデシロアブラムシの生活史は複雑だ。春に卵からかえった1匹の幹母(かんぼ)という雌が、針のような口で若いヌルデの葉を刺し「虫こぶ形成物質」を注入すると、その部分が陥没し周辺の組織は隆起して幹母を包み込むようになる。このようにして虫こぶの形成が始まるらしい。虫こぶは春から夏にかけて徐々に大きくなり、10月ころ最大になる。虫こぶの中では幹母が無性生殖で「胎生雌虫(たいせいしちゅう)」という雌の子を産む。胎生雌虫はまた無性生殖で雌の子を産み、こうして秋までに3〜4世代を繰り返す。1匹の幹母から増えたアブラムシはずっと翅のない「無翅型」だが、秋になると翅を持つ「有翅型」が出現する。写真4に写っているのがこの有翅型だ。秋が深まりヌルデの葉が枯れるころになると、虫こぶも茶色く変色し硬くなり、一部が破れて穴が開く。この穴から有翅虫が飛び出し、二次寄主であるコケ植物(チョウチンゴケ類)に移動する。そこで無性生殖で産まれた幼虫が越冬し、翌春に有翅虫となって再びヌルデに移動し、無性生殖で雌雄の幼虫を産む。ここで初めて雄の虫が現れるのだ。これら雌雄が有性生殖を行って卵を産み、その卵から新たな幹母が生まれる。
 有翅虫が出た後の虫こぶは「五倍子」と書いて「ごばいし」または「ふし」と読む。これを乾燥させて粉にしたものを「五倍子粉(ふしこ)」といい、いわゆる渋の成分であるタンニンを豊富に含む。酢酸等に鉄を溶かした「鉄漿(かね)」と五倍子粉を混ぜて反応させると黒い染料になり、明治時代まではこれを歯に塗って「お歯黒」とした。
 (尾崎煙雄)

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 ヌルデ Rhus javanica(ウルシ科)

 ヌルデシロアブラムシ Schlechtendalia chinensis(アブラムシ科)

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