No.1325 2015/02/06(金)

 モチノキのすす病


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 「校庭の木がおかしいのでちょっと見てほしい」と三島小の先生に頼まれ、問題の木に案内された(写真1)。見ると、モチノキの葉が黒く汚れている。まるで黒いすすをふりかけたようだ(写真2)。「大気汚染のせいかしら?」と先生がいうので、「そうではありません。これは“すす病”だと思います」と答えた。

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写真1
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写真2
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 このモチノキの枝には赤いかさぶた状のものがたくさん着いている(写真3)。これがすす病の「間接的な」原因だ。かさぶた状のものはカイガラムシの1種で、その名をルビーロウムシという。直径5ミリほどの半球型で、その名のとおりルビーを思わせる赤紫色をしている(写真4)。成虫の翅や脚は退化していて動くことはないが、これでもれっきとした昆虫で、植物の師管(光合成で作った栄養などを運ぶ管)から液を吸って生きている。熱帯アジア原産の外来種で、明治時代に日本に持ち込まれたものと考えられている。
 植物の師管液には糖分が多い。たとえるなら砂糖たっぷりのジュースのようなもので、栄養バランスが悪い。これを餌とするカイガラムシは糖分以外の栄養分も必要だから、大量の師管液を吸い、余った糖分を体外に排泄する。いわば「甘いおしっこ」だ。

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写真3
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写真4
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 この「おしっこ」が周囲の葉や枝にかかると、これを養分としてカビが生えることがある。このカビが“すす病”の正体なのだ。すす病が発生した葉を近くで見ると、その表面を覆う黒い物体はすすのような細かい粒子ではなく、繊維が絡み合ってできたフェルト状の膜であることがわかる(写真5)。これが「すす病菌」と呼ばれるカビ(糸状菌)の仲間である。このモチノキに着いたすす病菌は、植物の組織内に侵入することはないので、「寄生」しているわけではない。ただし、葉の表面を真っ黒に覆われた植物は光合成を妨げられダメージを受ける。
 以上のようなことをひととおり説明して、「このすす病には、モチノキ、ルビーロウムシ、すす病菌と、3つの生物がかかわり合っているんです。おもしろいと思いませんか」と先生に言ったら、「尾崎さんって、やっぱり変わってますね」と言われた。
 (尾崎煙雄)

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写真5
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 モチノキ Ilex integra(モチノキ科)

 ルビーロウムシ Ceroplastes rubens(カタカイガラムシ科)

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