君津市宿原にお住まいのTさんが教室博物館にふきのとうを持ってきてくださった(写真1)。中には花が咲き始めているものがあった(写真2、3)。ふきのとうはフキという植物の花だ。もう少し正確にいうと、フキの「伸び始めの花茎とそれを包む苞葉(ほうよう)」である。そして、フキには雄株と雌株がある。
Tさんに質問した。
「ふきのとうに雄と雌があるって、知ってました?」
「知らなかった。」
「この星型の小さな花が集まっているのが雄なんです。」(写真2、4)
「へえ、じゃあ雌は?」
「雌の花はこっち。白くて細い歯ブラシの毛の集まりみたいでしょう?」(写真3、5)
「ほんとだ、今まで気にしたことなかったなぁ。」
ふきのとうはやがて花茎を伸ばし、見た目にも花らしくなる。雄株の花茎(写真6)は高さ20センチ程になるが、それ以上は伸びず、花が終わるとじきに枯れる。雌株の方は雄株の倍以上の高さに伸び(写真7)、やがて結実する(写真8)。フキの果実は綿毛を持っていて、タンポポと同様に風に運ばれて広がる。
Tさんが帰った後、常連のKさんが来られたので尋ねてみた。
「ふきのとうに雄と雌があるって、知ってました?」
「知ってる、知ってる。近所のおばあちゃんに教わった。」
「へえ、さすがですね。」
「そのおばあちゃんが言うには、ふきのとうは雌がおいしくて、雄はまずいんだって。」
「ええ! ふきのとうの雄雌で味が違うんですか!」
「私は味の違いを気にしたことがないけど、おばあちゃんはそう言ってた。」
「今度、雄と雌を食べ比べてみて、結果を教えてください。」
「わかった。やってみますね。」
ふきのとうの雌雄で味が違うという話は初耳で、とても興味深かった。ところで、Kさんに2つのふきのとうを見せて、どちらが雌かを訊いたところ、雄株を指して「こっちが雌だと教わった」と答えた。「雌の方は小さな花びらがあってかわいいが、雄の花はかわいくない」と。これは生物学的には正しくないが、 食べるためのふきのとうを区別するのに問題はない。民俗分類の事例としてとても面白いお話を聞くことができた。
(尾崎煙雄) |